今月の表紙 徳島県
今月の表紙 災害時、県民の命を守る「とくしま-0 ゼロ 作戦」の覚悟

●文:吉井 勇・本誌編集部
●写真:千葉大輔

 飯泉嘉門徳島県知事は災害予防について、必要と判断したら一気に突き進んでいる。一例を挙げると、東日本大震災から10日後、宮城県名取で津波の現場に立ち、盛土の仙台東部道路が防潮堤となり、避難者を救ったことを目の当たりにしてすぐに動いた。徳島の鳴門から阿南までを結ぶ四国横断道路の法面を「避難場所」にするため、国土交通省やNEXCO西日本に働きかけ、「高速道路が避難場所?」という声を説得したのである。

 そして、「被害を最小化する『減災』の考え方を基本に、あらゆる方策を講じる」という考えで、県民一人ひとりが取り組む「自助」、地域のみんなで「共助」し、県や市町村などが担う「公助」との連携を明記した「南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例」を、3.11から1年9カ月後の2012年12月21日に施行している(12月21日は「昭和南海地震」発災の日)。

 南海トラフ地震では県内で3万1,300人もの犠牲が予測されたが、自助・共助・公助の連携でこの数字の9割以上を守ることができるという。だが、「0(ゼロ)」ではない。「0」に向け、国の「津波防災地域づくりに関する法律」にある土地利用の規制でさらに踏み込んだ。津波災害特別警戒区域のオレンジゾーンとレッドゾーンは知事と市町村で指定するが、まず、津波被害警戒区域のイエローゾーンの指定をどうするか。住民から地価が下がるという反発が出る。飯泉知事は「法律では『知事が(指定)できる』とありますが、条例で『知事が(指定)する』と明記しました」と、責任の所在をはっきりさせたのである。

 また、県内にある「中央構造線」活断層帯で起こりうる直下型地震への備えでも、「熊本地震と同じケースで、活断層帯の直下型地震は、発生頻度は低いものの、一度発生すれば大きな被害が生じる」と飯泉知事は考え、特定活断層帯の土地利用を厳しく考える。地表面のズレにより建物に深刻な被害が生じるため、事業者が40mの幅で指定された区域内で「多数の人が利用する建築物」等を新築するには、活断層の位置を確認し、直上を避けることとした。そのために県立鳴門渦潮高校の新校舎や、鳴門・大塚スポーツパーク「ポカリスエットスタジアム」のスタンド建設の工期を1年延ばすなど、徹底して臨んでいる。

 さらに、東日本大震災時、車・バイクを運転中の人の約30 %が発災直後に津波警報を知らなかったことから、災害情報を伝えるLアラートと連携して、カーナビへ配信する仕組みを総務省のモデル事業を活用し、独自開発した。災害が発生した場合、市町村の首長は住民へ避難勧告や避難指示を出すという、命に直結する判断に迫られる。責任を持って判断するための気象庁とのダイレクトな連携促進や、様々な組織(県や市町村、病院、ライフラインなど)が個別に保有する情報を地理空間情報と重ね合わせて1 枚の統合された地図として把握できる「災害時情報共有システム」も独自開発している。これを市町村に提供し、情報把握を素早く、確実にできるようにした。

 また、住民への情報提供は、徳島オリジナルの地域SNSをはじめテレビを活用し、避難の呼びかけを個人の名前で行うことや、マイナンバーカードの公的個人認証機能を活用して、避難者の行動を瞬時に把握するオールジャパンの仕組みづくりに取り組む。「マイナンバーカードのアプリケーション機能を活用し、個人のレセプトやアレルギー情報の把握が可能となり、必要な薬の手配も確実にできる。いわゆる震災関連死を『0』にしたい」(飯泉知事)。

 南海トラフ巨大地震等に係る震災に強い社会づくり条例は、「命を守る『とくしま-0(ゼロ)』作戦条例」という愛称を持つ。死者「0(ゼロ)」実現への強い覚悟が知事にはある。