今月の表紙4K・8K実用放送を提供する新放送衛星「BSAT-4a」
「衛星は4K・8K時代のインフラとして最適・最強」
矢橋 隆 株式会社放送衛星システム(B-SAT)代表取締役社長

●文:渡辺 元・本誌編集長
●写真:川津貴信

 2018年に開始されるBS・東経110度CSによる4K・8K実用放送の業務の認定が今年1月24日に行われた。BS右旋はNHKと民放5社の4K放送、BS左旋は通販のショップチャンネルとQVC、東北新社の映画エンタテインメントチャンネル、WOWOWの4K放送、NHKの8K放送が認定された。使用されるBSは「BSAT-4a」。2007年に打ち上げられ現在運用されているBSAT-3aの寿命が2020年にやって来る。BSAT-4aはその後継機となる。

 BSAT-4aの性能はBSAT-3aを大きく上回る。Busと呼ばれる衛星の中心となる本体部分は、世界の商業衛星に最も多く採用されている米国SSL社製の「SSL1300 platform」を使用。これは他の衛星にも採用されているプラットフォームのシリーズだが、BSAT-4aはそこに4K・8K対応トランスポンダを搭載した。

このBSAT-4aとアップリンクを行う地球局の運用という重責を担うのが、(株)放送衛星システム(B-SAT)の矢橋隆代表取締役社長だ。矢橋社長は技術局長(理事待遇)を務めたNHK時代から放送技術全体と放送衛星の発展に尽力し続けてきた、日本屈指の「放送衛星のプロフェッショナル」として知られている。

 「BSAT-3aはトランスポンダが8本でしたが、BSAT-4aは右旋と左旋を使用して合計24本で放送できます。トランスポンダの性能も、当社のこれまでの衛星よりも高く、他国の衛星でもこれほどの出力と特性は出せません。しかも4K・8K用にチューニングし、16APSKの変調方式に対応できるように性能を上げました。16 APSKへの対応は難しいため、他国の放送衛星では使われていません。これからの日本の4K・8K放送をこのBSAT-4aが発展させていきます」

 現在、衛星を使った4K・8K実用放送の準備が進められている一方で、インターネットでの4K映像コンテンツ配信サービスの利用者が増えている。だが矢橋社長は4K・8Kの衛星放送にはインターネットには果たせない大きな役割があると語る。

 「4K・8KはIP伝送では相当な帯域を占有してしまいます。最初のうちはユーザーがそれほどいないため問題はありませんが、多くの皆さんが4Kをご覧になるようになると、今のIP網では帯域が足りません。8KになるとIP伝送ではさらに難しくなります。一方、衛星は1機あれば全国をカバーできます。もともと、コスト的にも非常に効率が高いのが衛星です。4K・8KをIP伝送しようとすると、ユーザーが増えれば増えるほど設備を増強していかなければいけませんので、コストが増えていきます。4K・8K普及時代のインフラとしては、衛星が一番適していると思います」

 BSAT-4aのトランスポンダにはまだ9 2/3 本の空きがある。1本で4Kは3チャンネル、8Kは1チャンネルを放送できるため、4K換算で29チャンネル、8K換算で9チャンネル分が空いていることになる。矢橋社長はこの空きトランスポンダもこれから埋まっていくと見込む。

 「今回の申請では、おかげさまでたくさんの放送事業者が参入されました。今回申請されなかった放送事業者の皆さまも、実際に4K・8K実用放送がスタートした後、空きチャンネルに申請されると期待しています。2020年の東京オリンピックを契機に受信機の普及が進み、視聴者が急増するでしょう。放送の発展の経験からしても、いずれ世の中は4K、そしてさらに8Kの方に進んでいくのは必然で、そうなれば放送事業者の皆さまもビジネスモデルを描けるようになり、放送事業者の申請はどんどん増えてくるはずです」

 今後受信機が普及すれば、残りのトランスポンダを巡って放送事業者間での激しい争奪戦が繰り広げられる可能性も十分に考えられる。こうして4K・8K放送の時代が現実になっていく。

 BSAT-4aは今年8月〜11月にアリアン5ロケットで打ち上げられる予定で、準備が進められている。6月ごろには打ち上げ日が決まる見込みだ。日本の4K・8K放送を支えるインフラの誕生を放送業界は期待を持って見守っている。

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