今月の表紙 株式会社ニッポン放送 ラジオの根っこには「みんなの気配を伝える」力がある。

●文:吉井 勇・本誌編集部
●写真: 川津貴信

 ニッポン放送の吉田尚記アナウンサーの「カッコいいラジオを作りたい」に共感したグッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範氏とSF inc.代表でデザイナーのメチクロ氏、Cerevo代表取締役の岩佐琢磨氏たちは、昨年7月のクラウドファンディング立ち上げをマーケティングの視点で見ていた。目標額は1,300万円だったが、2カ月で3,000万円を突破。「市場の確かな存在と、どういう人たちが期待しているか」という確信を得ている。

 カッコいいラジオと思い立ったきっかけは、安藝氏がプロデュースした折りたたみスタイルのヘッドフォン「THP-01」にある。「世界トップのフィギュアメーカーであるグッドスマイルカンパニーらしいこだわりに惹かれた」(吉田氏)そうだ。

 安藝氏と組んでTHP-01をデザインしたメチクロ氏から、「ラジオって何」という問いを何度も投げかけられ、その答えを求めて繰り返し話し合った。そこで気づいたことは、夜遅く帰宅してラジオから聞く音楽と同じ曲をCDで聞いた場合、「ラジオは不思議と寂しくない」こと。「人間は群れて生きる存在で、『寂しい』というのは緩いアラートではないか」。そこから「ラジオはみんなの気配の発生装置」という考えになり、名称も「Hint」となった。

 このコンセプトは、リスニングポイントを誰からも強いられない無指向性スピーカーとなる。さらに「人の声にこだわった音づくり」とメチクロ氏は話し、「音声の周波数分析からプロのアナウンサーと素人の話す声の周波数特性に違いがあった」と振り返る。

 Hintに盛り込まれた機能を紹介しよう。AM放送の補完を行うワイドFMとしてのクリアな音声の受信であり、Bluetooth機能でスマホやPCに保存する音楽やPodcast、ストリーミング音楽、radikoをワイヤレスで再生できる。もちろんLineINの端子もある。

 「ラジオで流れた音声に反応して近くのスマホにURLを通知できる」、まさにニューメディアの機能も搭載する。ラジオ番組で流れた電話のダイヤル音(DTMF)に含まれる情報をHint本体で解析し、そのデータをBluetooth Low Energy(BLE)ビーコンでスマホへ送ることができる。

「番組で紹介したWebサイトのURLをスマホへ自動的に通知したり、Hint本体のLEDライトをDTMF音に合わせて変更できるので、番組の内容で変えたり、同じ番組を聴いているHintが同時に同じ色で点灯したり、みんなの気配も伝えられる」と吉田氏。またBLE技術は「いることを伝える」信号であることから、これも「気配」なのである。再び吉田氏に「カッコ良さとは」を問うと、「進化する意思があること」と答えた。

 一般販売するために量産体制に入ったが、「インシュレーター付きラジオは世界でもないんじゃないか」と製造を担うCerevoの岩佐氏。「スイッチを押した時、すぐに音が出るといったことへのこだわりなどの試行錯誤をCerevoさんが製造へ繋いでくれた」(吉田氏)。月刊ニューメディア アイコン

 


Hint 完成発表会で右からSF inc. 代表でデザイナーのメチクロ氏、グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の安藝貴範氏、Cerevo 代表取締役の岩佐琢麿氏、左端が吉田尚記アナウンサー

Hint のLED ライトは「みんな」を意識するように光の色も含めて番組との連動もできる