今月の表紙 ハンガリー 大使館 パラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使 日本の「ハンガリーファン」を増やし続ける、 魅力ある駐日大使

●文:渡辺 元・本誌編集長
●写真:広瀬まり

 皆さんはハンガリーに対してどのようなイメージをお持ちだろうか。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい首都ブダペスト。西欧と東欧の交点に位置することによる豊かな文化。リストやバルトークなどの音楽。現代史では、1989年に開放されたハンガリーとオーストリアの国境を大勢の東独国民が西側に越えて行き、その後のベルリンの壁崩壊につながった汎ヨーロッパ・ピクニックの記憶が強く残っている人も多いだろう。

 近年のハンガリー経済が抱える課題としては、製造業での輸入と輸出の依存度が高く、「生産と最終消費の間に位置する中間材の生産・輸出入が異常に膨らんでいる。EU平均と比べて、相対的にサービス経済の比重が低く、そして工場製造業の比率が高い、という経済構造となっている。(中略)その発展は外資(外需)主導・国家依存であった」(羽場久美子編著『ハンガリーを知るための60章【第2版】 ドナウの宝石』明石書店)という点が挙げられる。さらにユーロ危機による欧州の不況で輸出が減少したことがハンガリー経済に打撃を与えた。

 それに対して、オルバーン政権はオルバノミクスと呼ばれる金融ナショナリズム政策を実行し、2013年以降の経済回復を実現した。この金融政策が功を奏して、ハンガリーはギリシャのような債務危機に陥ることはなく、EU諸国で最高の経済成長率を達成した。4月の選挙によるオルバーン首相の勝利は、金融政策への国民の支持も大きな要因になっていると言えるだろう。

 そして第四次オルバーン政権は、ハンガリーで最大の省庁の一つとなったイノベーション・テクノロジー省を新設し、イノベーションによる経済の強化を進めている。これは従来課題だった中間財の輸出入、公共投資に過度に依存した経済構造から、スタートアップも含めた高い技術力を持つIT企業などによる民間の投資を増やし、それらの企業が提供する製品やサービスを国内外の市場で展開するという新しい経済構造に変革しようという試みだ。そのために外国企業がハンガリーの企業や研究機関と共同で研究開発を行ったり、同国に投資する場合に有利となる支援制度や優遇税制を設けて、外国企業によるハンガリー企業との取引や投資の促進に力を入れている。この詳細は、本誌18~20頁に掲載した特集記事「世界のIT企業から注目が集まるイノベーション立国・ハンガリー」をご参照いただきたい。日本のIT企業へのハンガリー政府の期待も大きい。

 この「イノベーション立国」政策の推進のため、ハンガリーと日本企業の橋渡しに日々奔走しているのが、パラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使だ。パラノビチ大使は2002年に関西外国語大学に留学、2004年に名古屋大学大学院で国際関係論、日本外交を研究し博士号を取得。その後名大客員教授として教壇に立った。名大在学中からハンガリーの新聞の特派員として勤務。2008年にはハンガリーのピック・セゲド社東京事務所設立を担当した。同社はハンガリーの大手食品メーカーで、パラノビチ氏は同事務所でハンガリー名産のマンガリッツァ豚を日本などアジア市場に広める実績を残した。また同事務所に勤務しながら、日本市場に進出する東欧企業を支援する会社を設立。そして2016年、駐日ハンガリー大使に民間から起用された。大使として多忙な毎日を送る中、休日には家族と都内の寺社や古美術店を廻るのを楽しむ、日本文化のファンでもある。

 パラノビチ大使の国際関係論研究者としての日本外交への知見、ビジネスマンとしての実績、東欧企業と日本企業との関係構築の専門家としての経験、そして真摯で気さくな人柄は、大使就任から今日までの約2年間という短い間にも、たくさんのハンガリーと日本の人々を結び合わせている。前出の『ハンガリーを知るための60章』で編著者の羽場久美子・青山学院大学国際政治経済学部教授は、「日本でこのようにハンガリー愛好者が全国に広がっている背景には、ハンガリーの魅力に加え、ハンガリー人の親日的な明るさ、(中略)若手の現パラノビチ・ノルバート大使の魅力も大きい」と述べている。

 ハンガリーは高度な数学教育の成果で、ITのスキルを持つ国民が多い。日本企業が利用できる支援制度や優遇税制も相まって、ハンガリー企業との提携や投資は日本のIT企業にとって魅力が大きい。外国企業にとっての投資対象国として、国際的にも評価が高まっている。ハンガリーと日本をつなぐパラノビチ大使の役割は、これからますます重要になっていくことだろう。

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