今月の表紙 あのアストロデザインが
新型顕微鏡を開発したらこうなった!鈴木茂昭 アストロデザイン株式会社 代表取締役社長
武居利治 同社 事業開発部 PL
武田重人 同社 事業開発部 部長

●文:渡辺 元・本誌編集長
●写真:川津貴信

 

 「アストロデザインは“ 8Kの会社”ではありません」。8K技術で映像の世界を牽引しているアストロデザインの鈴木茂昭・代表取締役社長は、意外なことを当然のように語った。「8Kは弊社の技術テーマの一つにすぎません。弊社は“エレクトロニクスの会社”です。私はこれまで、エレクトロニクスによって他の人が誰もやっていない新しいものを作り出すことを目指してきました。今回開発した新しい原理の透過型レーザー走査顕微鏡『LM-9001』もその一環です。レーザー顕微鏡の開発には、8Kよりずっと前から取り組んできました」。

 新型顕微鏡開発にも、エレクトロニクスを中核技術にして多様な製品を作り続けている鈴木社長らしい着眼が生かされている。AMラジオ送信所の近くでは、田んぼから音楽が聞こえてくる--。これは放送波の電磁エネルギーが水面に当たって運動エネルギーに変調した現象だ。「同じように電磁波である光を試料に当て、変調して反射してきた信号を利用すれば、光学顕微鏡が抱える光学限界を超えて、これまで見えなかったものが見えるようになるのではないか、と考えました」(鈴木社長)。

 そして10年余り前、鈴木社長は別の企業でレーザー顕微鏡の開発を行っていた2人の技術者をスカウトした。「LM-9001」開発の中心人物となった武居利治・アストロデザイン株式会社 事業開発部PLと、武田重人・同社 事業開発部部長だ。武居PLを中心にした新型顕微鏡開発は、「誰もやっていない新しいものを作り出す」という鈴木イズムの下、10年以上の開発期間を経て、今年ついに完成した。

 「LM-9001」の最大の特徴は、試料に当てたレーザーを受光素子で電気的にスキャンすることで、試料の同じ箇所から光の強度情報、位相情報、偏光情報、反射情報という4種類の別個の物理情報を同時に捉えられることだ。従来のレーザー走査顕微鏡はそれぞれの情報を別々の素子で取っていたが、「LM-9001」は一つの受光素子で取った情報を電気信号に変え、高速デジタル信号処理をして4種類の情報を画像化する。

 4種類の情報は別個に得られるため、従来の顕微鏡より高精度だ。武居PLはこう説明する。「例えば、位相情報は従来の位相差顕微鏡でも得られますが、位相情報を光学的に強度情報へ変換して表示する仕組みのため、位相情報に強度情報が混在してしまいます。バイオ研究や新素材開発などでは分離された情報が必要です」。

 「LM-9001」は、例えばバイオ研究分野では、さまざまな病気に対する臨床研究が進められているiPS細胞の観察などでの活用が期待できる。現在、透明な細胞の顕微鏡観察で主流になっているのは、蛍光色素を使用する方法だ。「しかし、蛍光色素には毒性がありますから、観察したiPS細胞を人体に戻して使用することはできません。

 『LM-9001』は細胞を染色しなくても位相情報や強度情報などを完全に分離して非常に鮮明な画像にすることができます」(武田部長)。バイオ研究分野以外にも、新素材開発分野ならプラスチックやガラスなどの透明な物体を顕微鏡で観察するのに有効だ。

 「『LM-9001』は、光とエレクトロニクスの利点を融合した方式です。弊社だからこそ実現できたことだと思います」(鈴木社長)。アストロデザインならではの透過型レーザー走査顕微鏡は、今後医療や工業の高度化に大きく貢献していくことだろう。月刊ニューメディア アイコン