●文:渡辺 元・本誌編集長
●写真:川津貴信
NHKエンタープライズ(NEP)が2013年に開発した高精細映像制作支援システム「nep infin(i ネップ・アンフィニ)」は、今日まで日本の4Kコンテンツ制作を支え続けてきた。そして今、8K対応システムに進化する「nep infini」は、日本の8K制作の促進になくてはならない支援システムになりつつある。8K対応「nepinfini」の開発・改良を進めているのは、2013年に4K対応の同システムを開発した
NEPの伊達吉克エグゼクティブ・プロデューサーだ。
「nep i nfi ni 」はCol orfr ont 社(ハンガリー)のカラーグレーディングシステムとNEPが独自開発したファイル管理ソフトを組み合わせたシステムで、伊達氏が自発的に開発を行ってきた。「自分たちで4Kコンテンツを制作する際の不便さを解決するため、インハウスのツールとしてプログラムを書きました。完成した『nep infini』は外部のポスプロの方々に知られるようになり、使いたいという要望が寄せられたため、外部へのライセンス提供を開始しました。制作会社であるNEPとしてはどうしても2K以上に時間のかかっていた4Kのポスプロ作業を『nep infini』で効率化することによって、よりクリエーティブな面に時間とパワーを集中させたいという目的もありました」(伊達氏)。
「nep i nfi ni 」のワークフローと特長を伊達氏に解説してもらおう。「撮影した4KRAWデータを『nep infini』のデータベースに入れると直ちにHDに変換。それをオフラインで一般的なHD対応編集ソフトで編集します。HDのオフライン編集データをコンフォームし、4Kのオリジナルファイルでタイムラインを作ります。そのタイムラインでカラーグレーディングを行い、グレーディング情報をデータベースに記録し、4Kコンテンツが完成します。編集ワークフローも編集ソフトも従来のHD制作とまったく変わりません。テレビ業界ではHD制作から4K制作に変わっても、ワークフローを変更することは受け入れられにくいのが現状です。そのため『nep infini』は制作者が4Kであることを意識しないで済むようなワークフローになっています」。撮影時やグレーディングの際のデータがポスプロの過程で継承され情報の再現率が他の4K制作システムより高いのも、「nep infini」の特長だ。プリプロからポスプロまでの現場をよく知る伊達氏だからこそ開発することができたシステムだ。「nep infini」は日本の4K制作ワークフローを効率化し、4Kコンテンツ数の増加に大きく貢献している。
また、従来のワークフローでは4K RAWデータをカラーグレーディングすると、その結果を新たな4Kファイルとして保存していた。グレーディングのバージョンごとに新しい4Kファイルができていき、ストレージの負担が増えていく。4K制作現場で困っているのは、番組によっては4Kファイルが数百TBにもなってしまうことだ。「『nep infini』のコンセプトは、4K制作のワークフローにおいて4Kファイルを増やさないことです。そこで『nep infini』はグレーディング情報のみを記録して、グレーディングした4Kファイルは最終段階まで吐き出さないという仕組みをとっています。そのため保存する4Kファイルは番組の尺分のみです。4K制作ではポスプロ途中の中間素材やバージョンもその都度映像ファイルとして保存しがちなため、ストレージを使いすぎるという『nep infini』開発当時の業界の課題は、現在でもほぼ変わっていません。今は4K/8Kコンテンツを増やさなければいけない時期にきています。ストレージの負担を軽減する『nep infini』は、今後も有効なシステムになると思います」(伊達氏)。
現在の最新版「nep infini」にはMac版とWindows版があり、Windows版は4KSDRと4K HDRの同時グレーディングができるし、8Kにも対応している。「nep infini」は8Kについてもコンテンツ制作を効率化し、制作を促進する役割を果たし始めている。伊達氏は8K制作への貢献について、次のように語る。「現在、8K制作はNHKが中心に行っています。8K制作用に機能を拡張した『nep infini』は、NHKが使用している機材以外でも8Kコンテンツを制作できるワークフローを提供できます。例えばソニーのF65やREDの6Kカメラを超解像機能で8Kカメラにスケールアップして使うことができるようになります。現在8K化が可能なすべての機種のカメラに対応しています。今後登場する多様な8Kの撮影機材、制作ワークフローに柔軟に対応でき、プロダクションにとって、8K制作のハードルを下げるのに役立ちます」。
8KはNHKのテレビ番組だけでなく、デジタルサイネージ、広告、美術館・博物館などのコンテンツでも、今後需要が増えていく。8K対応の「nep infini」によって、8Kコンテンツ制作が容易になり、これから増加していく需要に応えることができる制作環境が整いつつある。