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●文:渡辺元・本誌編集長
●写真: 川津貴信

 
 日本政府の準天頂軌道衛星「みちびき4号機」が今年10月10日、種子島宇宙センターからH2Aロケットで打ち上げられる予定だ。準天頂衛星システムを構成する初号機は2010年

9月、2号機は今年6月、3号機は今年8月にすでに打ち上げられており、4号機の打ち上げが成功すれば、24時間常に1基以上の準天頂衛星が日本上空に滞在し、高仰角から品質の良い信号を送出して高精度の衛星測位サービスを提供できるようになる。従来のGPSは誤差が10mほど生じるが、準天頂衛星から配信されるセンチメータ級高精度補強信号を使った衛星測位は誤差が数cmと非常に高精度となる。ここまで精度が上がると、自動運転・安全運転支援、鉄道運行管理、トラクターなどの農機を24時間自動運転できるIT農業などに活用できる。日本は世界で初めて、衛星配信方式により誤差数cmの高精度測位サービスを本格的に利用する社会となる。

 みちびき各機は三菱電機製。衛星の心臓部に当たる標準衛星プラットフォーム(バス)など、同社の衛星技術の信頼性はこれまでの豊富な実績で証明されてきた。「2号機から4号機は弊社の『DS2000』バスの上にミッション部が乗っている構成になっています。『DS2000』は現在軌道上にある11基の衛星に使用され、累計68年の動作実績を有しています。保険請求されるような軌道上での事故は1件もなく、高い信頼性を提供しています」(二木康徳 三菱電機株式会社鎌倉製作所 宇宙システム部 準天頂衛星システム課長 プロジェクトマネージャー)。

 三菱電機の準天頂衛星ビジネスは衛星の製造・販売にとどまらない。同社が目指しているのは、グローバル規模での高精度測位ビジネスだ。「みちびきの打ち上げを契機に、高精度測位事業を本格的に立ち上げます。そして『高精度測位社会』という新しいコンセプトを世の中に導入していこうと考えています」(柴田泰秀 三菱電機株式会社 電子システム事業本部 高精度測位事業推進部長)。同社は高精度測位事業推進部を今年4月に設立し、高精度測位社会実現に向けた活動を開始した。

 みちびき各機によって構成された準天頂衛星システムは、高精度な衛星測位サービスを提供するが、柴田氏は「高精度測位社会の実現には3つの要素が重要である」と言う。❶センチメータ級の高精度測位インフラ、❷高精度3次元地図、❸高精度測位端末、の3要素だ。

 センチメータ級の高精度測位インフラ(通称:CLAS)は、電離層や対流圏の大気揺らぎによって生じる衛星測位の誤差を補正する日本政府のシステム。現在日本全国に国土地理院が敷設した電子基準点が約1,300基設置されている。これが常にその地域の大気の状況などをモニタリングし、衛星測位の誤差量を瞬時に計算。その情報を衛星にアップリンクし、衛星から放送方式で利用者に送信して、誤差が水平方向で6cm、垂直方向で12cmという高精度測位を実現するという測位補強サービスを提供する。

 日本国の活動に加え、三菱電機は世界でCLASと同等のサービスを配信する会社に出資することを決定した。三菱電機を含む4社は今年8月、この測位補強データを配信する新会社Sapcorda社を立ち上げることに合意したと発表した。同社に出資する4社は、三菱電機の他、世界最大の自動車電装品メーカーBosch、カーナビのGPSチップで世界シェア1位のu-blox、そして測位補強のアルゴリズムを研究開発しているGEO++だ。「この4社が一緒に作った新会社で、日本以外の国でも準天頂衛星によるCLASと同等の高精度測位サービスの提供を目指していきます」(柴田氏)。

 センチメータ級の高精度測位ができても、地図の精度が高くなければ位置を正確に表すことはできない。現在国内で使用されている一般的な地図は、最も精度が高いものでも数mレベルの誤差がある。そのため三菱電機は水平・垂直方向のいずれも誤差が少ない高精度3次元地図の制作にも注力している。機器を搭載した専用の自動車で道路を走行して周囲の高精度3次元地図情報を簡単に取得できる三菱モービルマッピングシステムを開発し、各ユーザーに提供している。

 同社は高精度3次元地図の制作だけでなく、自動運転や社会インフラの維持管理、防災などに活用できる3次元位置情報共通基盤を日本が国を挙げて整備するための政策提言を、経団連の主要加盟企業で構成される(社)産業競争力懇談会(COCN)で行なっている。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)でも、同社が主導するコンソーシアムで、ダイナミックマップの整備を進めている。ダイナミックマップは、25cm精度の高精度3次元地図上に渋滞情報や工事情報、事故情報などいろいろな情報を付加して、自動運転や安全運転支援に使用する地図情報だ。

 今年8月、同社が産業革新機構とともに筆頭株主となっているダイナミックマップ基盤(株)は、資本金を40億円に増資して事業会社化した。「この会社は、まずは日本全国に3万kmある高速道路の上下線すべてのダイナミックマップを制作していきます」(柴田氏)。ダイナミックマップ基盤(株)にはこの他、ゼンリンなどの主要地図会社、測量会社のパスコ、国内の自動車メーカー10社も出資している。

 高精度測位端末に関しては、三菱電機は主にビジネスユーザー向け端末と、自動運転向け端末の開発を着実に進めている。

 今後、高精度測位社会が世界規模で拡大していくと見られる。準天頂衛星システムの4つの「星」は、我が国が目指す高精度測位社会での3次元位置情報ビジネスのグローバル展開を進める上で、重要なインフラになる。

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モービルマッピングシステムは
走行した周囲の高精度3 次元地図情報を取得する

三菱電機は高精度測位端末も開発している