森田富士郎撮影監督が高く評価「世界に誇れるカメラだ」
松下電器が「Varicam」の試写・評価イベント開催


2002年6月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい
 松下電器産業の720pバリアブルフレームカメラレコーダー「Varicam」の新製品紹介とフィルムとの映像比較、森田富士郎撮影監督をはじめとする撮影監督、プロデューサーなどが製品に対する評価や要望を指摘するというイベントが3月13日、同社の主催で開かれた。イベント「デジタルパフォーマンスII in Osaka」は大阪市にある同社のMIDシアターで開催。会場は関西の映画制作、CM制作関係者ら200人以上の招待客で埋まった。


フィルムの特性をデジタルで実現

 最初に、Varicamの開発を担当している田口勝行・松下電器産業(株)AVC社システム事業グループシステムAVビジネスユニットe-Cinema担当リーダーが、Varicamの新製品「AJ-HDC27F」の機能を解説した。Varicamは2001年夏、「27V」が米国で発売。新製品の27Fは映画撮影に対応した最新ガンマカーブを設定するなど機能を一段と強化し、2002年2月、国内で発売された。田口氏は27Fの開発コンセプトを「フィルムカメラのようなデジタルカメラ」と述べる。つまりスロー、早回しなどスピード効果による映像表現や、人間が肉眼で見たのと同じような質感を持った映像の実現を目指しているというわけだ。「フィルムの特性をデジタルカメラでいかに実現するか。フィルムに近い映像の質感と使い勝手を目指した結果、フィルム撮影に慣れた方も違和感なく使えるものになった」(田口氏)。具体的には、27Fは次のような特長を持っている。
(1)フィルムライクの可変速
 従来のビデオカメラの撮影スピードは固定。スローの場合は同じ画像を続けて再生している。コマ落としはあり得なかった。それに対して、27Fはカメラで可変速撮影。そのデジタル信号をメモリで変換し、テープには常に1秒60コマで記録することで、スローやコマ落としを可能にした。また、ノンリニア編集機器メーカーは既存の技術で対応できる。 
(2)フィルムライクのラティチュード
 フィルムが持っている白から黒までの再現性を実現した。これは新しいガンマカーブ「シネガンマ(FILMREC)」と「テレガンマ(VIDEOREC)」の開発により可能になった。従来のビデオガンマでは屋内から明るい屋外を撮影した場合など、明るい被写体が飛びやすかった。しかし27Fはガンマカーブを変えることで、暗部の階調を出し、明るい被写体や白も飛ばさない。シネガンマ(FILMREC)は映画撮影、テレガンマ(VIDEOREC)はテレビ番組撮影に対応する。シネガンマ(FILMREC)は基本的にプリセット(暗部の階調やダイナミックレンジなど一部を変更することはできる)で、「デジタルのフィルムがカメラの中にある」という感覚で使える。テレガンマ(VIDEOREC)はVEが調整できるようになっている。
(3)35mmフィルムカメラ用レンズの使用
 レンズはフィルムの質感を決定する大きな要素。27Fはカールツァイスのフィルムカメラ用レンズを使用した。
(4)フリッカーの解消
 従来のビデオではフリッカーが目立ったが、27Fはフィルムのようにフリッカーの発生を抑えた。
(5)感度などの表記をフィルムに統一
 感度、色温度などの呼び方に「デイライト」「タングステン」などフィルムの用語を使い、普段フィルム撮影をしている人にもわかりやすくした。
(6)各モードの映像効果を収録したDVD(制作中)
 Varicamが不適切なモードで使用されている例もあるという。そこで撮影スピード、ガンマカーブなどパラメーターによって映像がどう変化するか収録したDVDを制作中。
(7)ワンソースマルチユースへの対応
 映画をフィルム上映の他、DLP方式プロジェクター、テレビ、DVD、Webのストリームメディアなどで展開するワンソースマルチユースの必要性が高まっている。それを実現するには、コンテンツのデジタル化が有効な手段だ。

 田口氏は「フィルム映画とテレビはそれぞれ独自に進化してきた。両者をつなぐものがプログレッシブとHD。この2つを採用して開発したのが27Fだ」と語る。

「このカメラは素晴らしい」

 次に森田富士郎撮影監督が制作した作品『諧調』の試写が行われた。森田監督は映画『226』『利休』『鬼龍院花子の生涯』などの撮影監督を務め、日本アカデミー賞など多数の受賞歴がある。現在、日本撮影監督協会副理事。
 『諧調』は映像制作者に27Fの機能をフィルムと比較してもらうために制作した作品だ。Varicamとフィルムの両方で別々に撮影された。両者はカメラポジション、F値、焦点深度などが全く同じ条件で撮影された。準備に約1カ月、撮影期間は約1週間。舞台の一つとなった茶室は、京都・高台寺の茶室を東映の撮影所内に忠実に再現したという徹底ぶりだ。試写では、(1)35mmフィルム撮影した映像を映写機で上映、(2)Varicamで(1)と同じシーンを撮影してDLP方式プロジェクターで上映、(3)Varicamで撮影した映像をフィルムレコーディングして映写機で上映、という3種類の映像を同一スクリーンで公開した。
 森田監督は「新しいメディアへの挑戦であり、授業料を払ってでも参加したかった」と『諧調』の制作への意気込みを語った。制作を終えての感想については、次のように指摘した。
 「Varicamの性能はフィルムと同等で、大変なものができたという実感だ。限りなくフィルムに近いシネガンマを信じて挑戦した。使用感は素晴らしく、世界に誇れるカメラだ。マーケットが広がることに期待している。我々撮影を担当している人間は、頭の中のイメージを具体化することによって、それを評価、賛同してくれる人を大勢つくりたいという願望を持っている。想像の領域を具象化するための手立てとして、このカメラは素晴らしいと思う。映画とビデオの交流による新しいメディアをこれから育てていきたい」


性能、コストともCM撮影に最適

 続いて、「CM制作におけるVaricamの有効性」と題して、VaricamユーザーのCM制作者たちによるシンポジウムが行われ、Varicamの使用感や可能性、メーカーへの要望について意見を出し合った。
 日の出直後の海岸でCM撮影を行った倉田修二撮影監督は、朝日と暗部の同居について、「フィルムでも同居できないくらい暗部が出ていて、なおかつハイの色も出ていたので驚いた」と感想を述べた。
 山内嘉信プロデューサーはVaricamの使用による制作コスト面での利点について、「Varicamで撮影した東リのCMでは、約1万2,000フィート、合計1万6,000円のテープを使った。フィルムの場合は小刻みにカットして撮影したとしても、6,000フィートは使う。現像代なども入れると、費用は約100万円。これだけの差が現実に出ている」と指摘。
 塚越力撮影監督は、「私がVaricamを使う理由は、松下電器が『フィルムトーン』を設計思想として大事にしている点。CMではクオリティ重視でフィルムが多く使われているが、この状況がいつまで続くかわからない。ビデオカメラの開発スピードが上がれば、ビデオがフィルムに取って代わる日も遠からず来る」と予想する。
 櫻井隆行テクニカルディレクターは720pのVaricamと1080pとの違いについて、「1080pの方が走査線は多い。しかしCM撮影ではオーバースペックだ」と、用途に合わせて適切なスペックのカメラを選択するように訴えた。


全編Varicam撮影の劇場映画

 イベント終了後、森田監督、櫻井氏、松下電器・田口氏、そして松下電器AVC社副社長の山本克彦氏に、本誌のインタビューに答えていただいた。
 森田監督はVaricamについて、「明部から暗部までの階調が非常にスムーズに描写できる。フィルムは増感、減感が可能だが、ノーマルで収録するのが最適。それに対して、HDは感度を変えても問題はない。これはフィルムには不可能な領域だ。HDはフィルムと違う新しい表現を可能にする」と高く評価する。
 田口氏は「撮影現場の方々のご意見を取り入れて開発した。Varicamによってフィルムとビデオの世界の真ん中にもう一本の道ができた。フィルムの世界の方にとっても、ビデオの世界の方にとっても、新たな表現ができる。クリエイターの想像力を引き出す新しい道具ができた」と語った。
 ユーザーの前で製品の評価とともに批判も公表するという今回のイベントを行った山本副社長は、「忌憚なく意見を言っていただき、それに我々がどう応えられるかが勝負だ。当社は撮影から編集、DLPによる上映までのトータルシステムとしての電子シネマを何とか成功させたい。そのためには辛口の意見も受け入れ、チャレンジしていかなければならない」と決意を表明した。
 櫻井テクニカルディレクターは「人間の感性に訴えかける撮影、表現の技術が、ビデオではフィルムとは異なり若い人に継承されてこなかった。今回の松下電器と森田監督によるテスト作品の制作は画期的だ。これからビデオ、フィルムの人が一緒になって、この新しいメディアでのクリエイティブワークが行われていくだろう」と期待する。
イベントの最後には、原田眞人監督、阪本善尚撮影監督による、映画『突入せよ! あさま山荘事件』のラッシュ映像が上映された。全編Varicamで撮影された作品だ。雪の中で黒っぽい装備の機動隊員が活動するシーンが多いこの作品では、白と黒の階調の表現に成功している。機動隊の放水や鉄球による攻撃のシーンでは、スロー機能を活用。Varicamの能力が遺憾なく発揮されていた。


(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

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