<特集 ケーブルテレビ勝ち残り戦略>
唯一の上場ケーブル局、スターキャット
上場までのプロセスと調達資金の使い道

2002年7月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい
 今年2月、スターキャット・ケーブルネットワークがケーブルテレビ局で初めて株式上場した。同社の上場までの道程と、上場によって可能となった設備投資計画などをレポートする。同社の上場による効果や課題、必要な準備作業は、他の多くのケーブル局にとっても当てはまるものだ。また、主要ケーブル事業者トップの、上場に対する見解もまとめた。
(渡辺 元=本誌編集部)


上場の準備作業に2年間

 スターキャット・ケーブルネットワーク(株)が上場の直接的な準備作業に要した期間は、約2年間である。ただし、それ以前から上場を睨んだ社内体制の構築を進めていた。同社の設立は1985年。親会社のヘラルドコーポレーション社長で、当時スターキャット社長の古川爲之氏(現在、ヘラルドコーポレーション会長兼社長、スターキャット会長)は、設立時から上場を視野に入れて、社内規程や予算制度などの整備を着々と行ってきた。
 上場の本格的な準備作業を開始したのは2000年初頭。作業は監査法人トーマツの指導の下に進められた。まず、累損を解消するため2000年2月に減資、同年3月に増資を実施。次に、社員5名のプロジェクトチームによって、上場の審査書類「登録申請のための有価証券報告書」「登録申請のための報告書」の作成を始めた。作業は投資家への情報開示のための組織や内部監査室の新設といった社内体制整備と並行して、約1年がかりで行われた。そして2000年11月に日本証券業協会に上場申請。その後、上場のための懸案となっていた、親会社に借りていた不動産の買い取りが2001年春、銀行からの借入金に対する親会社の債務保証外しが同年秋に実質完了。2002年2月にジャスダック(店頭)市場に上場を果たした。
 スターキャットの奥村見治・代表取締役社長は、「ケーブルテレビ業界初の株式公開であり、当社の知名度を全国で高めることと、ケーブル局でも上場可能であることを示して業界のボトムアップを図るため、地元の名古屋証券取引所ではなく、全国市場であるジャスダックでの公開を決めた」と語る。

4つの課題をクリア

 同社は上場の準備段階で、上場の重要な要件として4つの点を問われた。(1)事業の継続性、収益性、(2)経営の独立性、(3)累損の解消、(4)社内体制整備である。上場の審査基準は東証、店頭、マザーズ、ナスダック・ジャパンなど各株式市場によって異なるが、これらの要件は今後多くのケーブル局が上場する際の共通課題となるだろう。

(1)事業の継続性、収益性
 同社の上場を検討する際、主幹事となった野村證券など証券各社は、「スターキャットの事業内容は、上場に耐え得る」と判断した。第1の根拠は、名古屋の大都市圏がサービスエリアであることだ。対象世帯は名古屋市16区の内、14区と周辺市町の合計約82万世帯。しかし接続世帯は約28万世帯であり、未開拓の大きな市場が控えている。第2の根拠は、都心部の法人需要が見込めること。成長が期待される光ファイバーネットワーク事業など高付加価値の通信事業には、企業の顧客が欠かせない。そして第3の根拠は、サービスエリアが半径15キロ以内に限定されているため、高効率の事業展開が可能であることだ。これらの恵まれた市場環境は、大規模局だが住宅地が中心のiTSCOM(旧東急ケーブルテレビジョン)などにはない強みである。この要件を満たしているケーブル局は全国でも少なく、多くの局にとっては上場の大きなハードルになる。

(2)経営の独立性
 スターキャットは重要設備の賃貸、資金調達、商取引の面で一部、親会社であるヘラルドコーポレーションに依存していた。そこで上場前に経営の独立性を確保するため、親会社から借りていた放送設備のある社屋を買い取り、賃貸契約を解消。政策投資銀行からの借入金に対する親会社の債務保証については、工場抵当法に則り放送設備、伝送設備などを財団組成して担保物件にすることで、債務保証を外した。

(3)累損の解消
 2000年当時、19億円に達していた累損を解消するため、2000年2月に10株を1株とする株式併合による無償減資を実施。27億円の資本金を2億7,000万円に減資、同年3月に増資を行った(資本金12億7,000万円)。新株引受のほとんどは、将来の上場を見込んだ既存株主であり、株主の間で減資・増資に対する不協和音は起こらなかったという。

(4)社内体制整備
 同社は1985年の設立当初から、上場に向けて社内規程や予算制度などの整備を進めてきた。例えば、売上計上基準については、発注段階で計上した見込み売上が発生しないよう、全社的に基準を統一。予算は実績との誤差を±5%以内に収めるようにし、さらに毎月予実分析を報告し、予算と実績に責任を持たせていた。営業部、技術部とも月次決算と6カ月決算を導入。加入者数や売上高の予測には、シミュレーション手法を取り入れていた。
 それでも、上場にあたって社内の決裁、お金、仕事などの流れをフローチャートに図式化してまとめ、改めて社内体制を整備した。フローチャートの作成にかかった期間は4カ月。また、情報開示のための組織や内部監査室などを新設。人事制度も変更し、役員を対象にしたストックオプション制度や、管理職に年俸制を導入した。

3年間で100億円設備投資

 同社が以上のような煩雑な作業を経て上場した最大の目的は、設備投資資金の安定した調達である。また、上場企業に仲間入りすることによって、銀行からの資金調達が容易になるという効果も出ている。上場後、融資の提案を持ちかけてくる銀行が増えているという。
 同社が計画している設備投資は、3年間で総額約100億円という規模である。内訳は、伝送設備の維持、エリア拡大、広帯域化がそれぞれ年間10億円ずつ、ヘッドエンドなどその他のデジタル化が3年間で10億円となっている。エリア拡大については、名古屋市内に残る約4万世帯、市外の約7万世帯のエリアで新たに開局する計画である。広帯域化は現在市内の4区で完了しているが、エリア内の残り10区で工事を進める。「ケーブル局の事業の中心はテレビ事業だ。NTTなど強力なコンペチターと競合するインターネット通信にケーブルテレビの将来性を期待するのは、間違っている。インターネット接続サービスは値下げ競争が進行しているのに対し、テレビ加入者の月額利用料は最大5,500円。テレビを押さえているケーブル局のメリットを最大限活用し、テレビを中心にしたビジネスチャンスを広げていく。そのためには、テレビ加入者を早く囲い込む必要がある。デジタル化投資はそのために重要であり、現実に加入者が増えている」(奥村社長)。

社内体制整備も上場の副産物

 さらに顧客管理統合システムにも、合計3億円を投資する。「SCATS」と名付けられたこのシステムは、営業支援・顧客管理システムとカスタマーセンター、CADシステム、工事会社など取引先のシステムが結ばれたものである。スターキャットの有料加入者は、現在約14万世帯。既存のケーブル局用顧客管理システムは、15万世帯以下を対象にしたものが多く、今後も加入者が増加し続ける見通しの同社には適していない。また、通信事業などサービスも多様化している。そこでNTTコムウェアに新規開発を委託した。新システムはCADと連動した地図に設備の位置を表示したり、加入者からの問い合わせや営業活動の履歴を呼び出すなど、カスタマーサービスと新規加入者開拓に役立っている。
 同社の上場は、このような資金調達の面だけでなく、社内組織の変更や予算制度の整備などが、結果的に経営力の強化につながるという効果も期待できる。経営陣の経営手法も、ROE(株主資本利益率)、PBR(株価純資産倍率)などの財務指標を駆使したものに変化してきた。
 上場がもたらす心理的効果も大きい。奥村社長は、「上場は社員に『頑張り方』を与えてくれた。全員が一致して、『我々は上場企業の従業員だ』という意識を持ってほしい。若手の管理職にも、責任感、やる気が高まっている。また、当社の上場は他のケーブル局の励みにもなる。これからは、実績を通して『ケーブルテレビは儲かる』という認識をアナリスト、市場に持っていただきたい。これは業界全体のPRにとって非常に重要だ」と期待する。

(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい




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