<ワールドカップとITパフォーマンス>
短い準備期間のためか、目立つ新規ITサービスは少ない

2002年8月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい
 世界最大のスポーツイベント、ワールドカップの運営にとって、ITは欠かせないものになっている。これは組織の運営というソリューションからいえば、それがスポーツであれ、企業であれ、当然のことだ。とはいえ、今では当たり前に「ワールドカップを支えるIT」と言えるが、実は1990年のイタリア大会では公式記録をフロッピーベースで運用していた状況であった。隔世の感。そこで、2002ワールドカップ大会のIT拠点となる「国際メディアセンター(IMC)」から、ITの活躍ぶりをレポートする。
(吉井 勇=本誌編集長)


94年アメリカ大会が
「ワールドカップ+IT」元年

 弊誌がワールドカップやオリンピックなどのスポーツと情報の係わりに関心を寄せたのは、1990年代の初めだった。1992年のフランス・アルベールビル冬季五輪を舞台に繰り広げられた日本のハイビジョン試験放送の取材現場と、欧州提案のHD規格だったHD-MAC方式の実験放送・公開を取材している。
 大きな転機、それはワールドカップのアメリカ大会からだ。1994年6月から1カ月にわたり全米9カ所の会場で行われた大会は、広い国土での開催と、時差のある運営を効率よくカバーするために、高速ネットワーク通信とリアルタイム処理が動員された。1.5Mbpsの高速ネットワークと、パソコンを駆使したデータベースの活用が本格的に行われたのである。またプレス関係者には、選手の個人情報から過去の試合結果まで揃えたデータベースにアクセスできる「ワールドカップ・ニュース・サービス」を展開している。これはオリンピックの「INFO」サービスと同じコンセプトのもので、今大会の「INFO2002」に踏襲されている。
 その4年後、フランス大会ではアメリカ大会のITを引き継ぎ、大会開催の3年前からシステム開発したが、アメリカ大会との決定的な違いは、インターネットの進歩と活用にあった。公式サイトを1997年3月に立ち上げ、運用を始め、1日の最大ヒット数が約1億を記録したという。

今大会は2つのIMC
ソウルと横浜

 世界から報道関係者が約1万人を超えて集るが、その取材拠点となるのが、IMC(International Media Centre)だ。このIMCは、メインのアクレディテーション(資格認証パス)センター(MAC)と、国際放送センター(IBC)、メインプレスセンター(MPC)の3つで構成され、2カ国共催ということから同じ機能を持つIMCが、横浜とソウル市内のCOEX(国際貿易センタービル)に設置されている。
 新聞や雑誌などのプレス関係が利用するMPCは、国内10カ所の会場内に用意されたスタジアムメディアセンター(SMC)を統括し、取材陣がFIFAの公式情報などを入手する場である。
 今回のテレビ放送用の映像制作を担当するHBS(ホスト・ブロードキャスト・サービス)が各スタジアムの試合映像を集中管理し、各国のコメンテーターの実況解説とともに国際信号として提供する拠点がIBCである。ソウルにあるIBCへのリレーションセンターでもあり、放送権を持つ局へのサービスを行う。
 アメリカ大会から本格的になった公式情報提供サービスである「INFO 2002」(今大会のサービス名称)に対応するイントラネット専用端末46台が用意され、インターネット用端末も14台が提供された。今回の数少ない目玉の一つが無線LANサービスで、これまでにないフリーなネットワークアクセスとなったことが大きな特徴だろう。

ITオフィシャル・パートナー決定が1年前
きびしいITパフォーマンス

 IMCは、世界のプレス、放送関係者たちが迅速な報道、放送ができるようにあらゆるサポート体制を整えている。前述したINFO 2002サービスやデイリーの記者会見を通じた情報提供から、メディア関係者が必要とする銀行や郵便、宅送サービス業務から、緊張感をほぐすためのリラクゼイションエリアまでが揃っている。つまり、この中で事が足りるというわけだ。
 IT面での前回フランス大会との違いは何か。前回はシステム開発に約3年の時間をかけているが、今回の共催大会ではIT分野のオフィシャル・パートナーの決定が非常に遅れ、約1年前に決まったという準備時間に尽きる。そのためか、ITサービスでは新規性に乏しいものになった。例えば、INFOサービスにしても、すでに行われてきたものであり、インターネットの活用も前回から広がってきたものだった。
 それどころかなくなってしまったものもあった。それは前大会で実験的に行われたネットワークによるオン・デマンド映像サービス(とくにシュートシーン)だ。専用端末で、パリのMIC(フランス大会ではIMCをそう呼んだ)内で提供されていたが、今大会ではなくなっていた。相変わらず、ビデオテープに記録した試合を「ビデオブース」で見ることはできるが、これは前回同様「あまり利用されない」で終るだろう。
 メディア専用ではないが、デイリーのハイライトシーンをまとめた映像を、ワールドカップの公式サイトで有料提供するサービス「FIFA VIPクラブ」が期間中に行われている。これもブロードバンド時代の映像サービスの象徴であろうか。
 やはり、IMC全体のIT展開をみると、「物足りなさ」の感は強い。その原因は、準備の時間不足と2カ国共催、そしてFIFAとのリレーションなどの運営ロスが大きく響いたようだ。関係者の話しによると「まずは言葉の問題があること。英語を共通にしても、それほど得意ではない関係者が意思を伝え合うには時間がかかった。また、一番のロスは意思決定者がはっきりせず、その影響が現場作業にまで及んだことだった」という。
 日韓といえば、ITのハードシステムでは世界をリードする企業が存在するわけで、21世紀初頭を飾るに相応しいITパフォーマンスを期待したが、これは欲張りな考えだろうか。ある意味では、ITのショーケースとしてスポーツイベントの役割が少なくなったのではないか。



日韓の高速衛星通信で11試合を超大画面高精細画像伝送デモ

 「サテライト・スタジアム」と名付けられたハイビジョン横3面に映し出す超大型の高精細映像の実験が、ワールドカップの11試合で行われた。これは日韓の通信衛星(KOREASAT-3とN-STAR)を利用したもので、Kaバンドで155Mbpsの高速衛星通信で行ったものだ。
 韓国側からは、ウルサンとイッチョンのスタジアムに設置された撮影用の専用カメラと中継車から、日本のIMC YOKOHAMA会場、総務省・講堂と東京・青山のTEPIAに用意された大画面に伝送され、計3試合が映し出された。日本の場合は、横浜スタジアムと埼玉スタジアムで開催の8試合が伝送された。
 今回のシステムは、3面ハイビジョンカメラで撮影された3チャンネルの高精細大容量の映像信号をMPEG-2に圧縮し、ATMの3チャンネル光多重も使って伝送されたものだ。投映はリアルQXGA対応プロジェクターを使用(総務省、IMCはリアルSXGAを使用)。
 筆者は、6月3日のブラジル対トルコ戦を見たが、シームレスで9:48の超ワイド画面は迫力満点。スタジアムのロイヤルボックスにいるような「ピッチがそのまま見える」映像は、テレビ放送のようなクローズアップと切り替え中心の画面構成とは、まったく異なる世界で、映像観戦としては新鮮な印象を持った。しかし、スタジアムへ出かけずに取材する「遠隔取材」の方法となるかについては疑問を持つ。その理由の一つは選手の背番号がはっきりしないことで、同席したメディア関係者も同じ指摘であった。とはいえ、これは将来十分に解決できる問題であり、今後の展開を大いに期待したい。



AVAYA(アバイヤ)
W杯史上初の「オフィシャル・コンバージェンス・コミュニケーション・プロバイダー」
2カ国共催を支えた「中枢神経」

 アバイヤは、2001年6月に2002FIFAワールドカップの「コンバージェンス・コミュニケーション」のオフィシャル・パートナーとなった。この「コンバージェンス・コミュニケーション」とは何か。一言で表すなら、「音声・データの統合したアプリケーションを自在にネットワークすること」になる。これまでの音声電話とデータを別のネットワークによって展開するのではなく、ハードウェア、ソフトウェアともに単一のネットワークで行うというものである。
 ワールドカップ史上で初めての分野でオフィシャル・パートナーとなった理由を「企業イメージのアップと世界的な告知を目指して、世界最高の大会をスポンサーすることにした」と鵜野正康・日本アバイヤ(株)社長は話す。アバイヤは、ベル研からの流れを汲むルーセント・テクノロジー社から企業事業部門が独立したもので、歴史はあるものの社名は知られていない。そこをワールドカップの持つ世界への発信力でカバーしようというものだ。
 今回のネットワークでは、2カ国で同時開催される試合を同時にサポートするネットワークづくりであり、世界で最大規模のイベント・ネットワークの構築である。
 この統合ネットワークに関連するシステム構築は、以下の通り。
・日韓の計20スタジアムと2カ所のIMCと大会事務局本部で、総計4万のコネクション
・5,000km以上になるネットワーク配線
・200台以上のアクセスポイント・ルーター
・150カ所を結ぶWAN接続
・100台以上のデータネットワークスイッチ
・400のエンドポイントで活用される20台以上のIPコミュニケーションシステム
・22台のサーバー
 とくに今回は、ワールドカップ史上でこれまた初めての無線LANテクノロジーを利用し、メディア関係者はIMCやスタジアムのどこにいてもノートPCでインターネットにアクセスできるようになった。。この環境でスタジアムで試合を観戦しながら、テキストファイルと画像ファイルを送受信できるわけだ。ピッチサイドにも用意され、カメラマンが撮影した写真をいち早く無線LANで迅速に送信できるという。まさに、リアルタイムで取材、送信できる環境へ一歩踏み出したわけだ。
 なおアバイヤでは、2003年に中国で開催されるFIFA女子ワールドカップ2003や、2006年のワールドカップでもオフィシャル・パートナーとなっている。今後、進化するIPネットワークを軸に、世界への最新技術を駆使したアプリケーションのサポートに期待したい。

(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい




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