道路渋滞や排気ガスによる大気汚染などの地域の交通問題を解決する施策として、交通に対する需要を最適な量に調整する交通需要マネジメント(TDM:Transportation Demand Management)が注目されている。そこで、TDMの中でも特に情報通信を活用した施策が成功する条件は何か、全国の事例から探った。また48〜50頁には、新しいタイプの地域公共交通システムであるオンデマンド交通システムの導入事例と、TDMなど交通計画を策定する際に交通流などの交通状況を定量的、視覚的に予測する交通流シミュレーションシステムの解説記事を掲載した。
(渡辺 元=本誌編集部) |
従来の交通政策では、自動車交通量の増加に対応し、新たに道路を建設したり路面電車を廃止してきた。自動車交通の需要増加を黙認し、それに道路など交通サービスの供給量を合わせるという政策である。それに対して交通需要マネジメント(TDM)は、機能的で暮らしやすい都市計画や環境保全の観点から、適切な水準の交通供給量に見合うまで交通需要を調整、減少させる。
TDMには、表1にあるようなさまざまな施策があり、地域によってその内のいくつかを組み合わせて実施している。その中には、今バスがどこを走っているか利用者に知らせるバスロケーションシステム(バスロケ)や公共車両優先システム(PTPS)のように、情報通信を活用したものがある。今回の記事では、特にバス関連の情報提供サービスに焦点を合わせ、自家用車の利用者をバスや鉄道など公共交通利用者に転換させる効果や課題について考える。TDMを行っている自治体は全国に数多く、実施規模もさまざまだが、今回の取材対象は、国土交通省の「社会実験」と「TDM実証実験」としてTDMを実施した自治体の内で、バスロケを行っているところに限定した。
ニーズの少ない従来型バスロケ
各地の事例を見ると、従来型のバスロケーションシステムは、TDMの効果を上げるのにあまり役に立っていないようである。
A市では、バスの利用促進を目的にしたTDMの一環として、バスロケを実施している。バス停がある主要公共施設に端末を設置。「バスは○○バス停を出発しました」という接近情報のみ表示している。しかし、バス停間のどの辺りを走っているかわからないため、バスが時刻表より遅れている場合、利用者は到着時刻を予想できない。リアルタイムで情報更新できないのも欠点である。情報更新は30秒に1回。しかも処理速度が遅い。バスがGPSの情報を受信し、位置情報をセンターに送信、センターで処理後、ポケベル回線でバス停に送信するまで、約3分かかることもあるという。情報更新される前に、2つ先のバス停にバスが到着してしまうケースも出てくる。同市の交通担当者は、バスロケがバス利用を促進するためには、「情報提供に時間的ロスがないこと」と指摘する。B市でも、一部の路線で接近情報を提供するバスロケを実施しているが、バス利用の促進効果は少ないという。同市では、市営バスの利用者数は減少し続けている。
接近情報だけの従来型バスロケは、利用者のニーズを反映していない。A市の担当者は、「バスから乗り換える鉄道駅への到着予測時刻の表示も必要」と言う。従来型の接近情報にも、バス停での待ち時間のイライラを多少軽減する効果はある。しかし、予測時刻はこのまま遅れたバスを待つべきか、それとも自宅に戻って自家用車を使うべきか、判断する材料として利用できる。バスが遅れたときの善後策を決定するための、より実用的な情報サービスである。精度の高い予測が保証されれば、バスの利便性は上がる。
ケータイに乗り継ぎ情報配信
バスのサービス向上という狭い領域ではなく、公共交通の需要創出を目指すTDMの観点に立つと、バスロケ以外のバス情報サービスに期待が集まる。
B市では、JR、民営・市営バスなどの路線、時刻表、運賃などを総合的に提供するサービスの公開実験を、Webサイトとiモードで行っている。目的地までの路線、発車時刻、乗り継ぎ料金などを各社の公共交通機関をまたがる形で検索できるのが特徴である。同市では特にPRしていないが、サービスの利便性が口コミで広まり、これらのサイトは1日平均約700名が利用している。今年9月にはauとJフォンにもサービスを拡大。実験は今年度中続けられ、2003年4月に本格運用を開始する予定である。同市の担当者は、「バスに関する情報提供を効果的に行うためには、複合的形態でのサービスが必要」と述べる。
C市では今のところ、このような乗り継ぎ情報提供の計画はないが、期待は大きい。同市中心部では、郊外からの通勤者の自家用車がJRの線路と河川を渡る橋に集中し、朝夕にひどい渋滞を引き起こしている。そのため、通勤者の交通手段を自家用車からバス、鉄道に転換させるのが課題になっている。同市の交通担当者は、公共交通の利用を促進するためには、「停留所だけでなく、携帯電話やモバイル機器でも情報提供サービスを利用できればいい。目的地への最適な公共交通機関を選択できるように、電車、バスの乗換時刻、料金を情報検索できれば便利だ」と言う。
Webサイトや携帯電話で利用できる地域の公共交通機関の乗り継ぎ情報提供は、バスロケとはメディアや情報内容だけでなく、その効果が大きく異なる。バスロケは既にバス停に足を運んだ人へのサービスである。それに対して乗り継ぎ情報提供は、通勤に自家用車と公共交通のどちらを利用するか選択するための判断材料を提供するサービスだ。ここで公共交通の利点を時間、料金といった具体的な形で明示できれば、それまで自家用車を利用していた人を公共交通利用者に転換できる。自家用車利用の需要を公共交通需要にシフトするための、効果的な施策と言える。
ただし、乗り継ぎ情報提供を実現するためには、交通事業者間や自治体との連携が不可欠である。そもそも公共交通の乗り継ぎが不便では、いくら情報を提供しても公共交通の利用を自家用車利用者に促せない。C市の交通担当者は、「公共交通各社が協力して、乗り継ぎやすいダイヤ編成にしたり、乗り継ぎ料金を割安にすることなど、アイディアが必要。当市には具体的な構想はないが、各社で利用できるICカード式乗車券の導入が便利ではないか」と提案する。現在、赤字経営の多い公共交通事業者は設備投資が困難だが、地域の公共交通を復活させるきっかけとなる可能性は高い。
定時性確保の同時施策が不可欠
しかし、バスに関する情報提供は他の施策と組み合わせて実施されなければ、バスや乗り継ぎ先の鉄道の利用を促進するのは難しいようだ。C市の交通担当者は、「情報提供だけではTDMの効果は上がらない。当市では渋滞のためバスの定時性を確保できず、バスの乗車時間も長いため、バスの利用者数が落ちている。その結果、自家用車通勤が増えて渋滞が激しくなり、さらにバス利用が減少するという悪循環に陥っている」と嘆く。そのため、バスを優先的に通行させるバスレーンや信号制御による公共車両優先システム(PTPS)の導入が必要だという。「バス運行の定時性確保のため、バスレーンとPTPSが必須だ」というのは、調査した全ての自治体担当者に共通する意見である。
札幌市では、人が集まり、活気のある中心部を作ることを目標にした都市政策の中に交通政策を位置付け、新しい総合的交通計画の策定を進めている。同市はバスレーンとPTPSを既に実施中。さらに、郊外の駅前に駐車場を整備するパークアンドライドや、交通広場の整備による鉄道とバスの乗り継ぎ利便性の向上など、さまざまな公共交通促進策を行っている。
仙台市は新興住宅地が郊外に次々開発され、地域全体での土地利用密度が低く、自動車依存度が高い。その対策として1999年、公共交通を重視した交通体系の構築を目指す「アクセス30分推進構想」を策定。2001には国の「オムニバスタウン」の指定を受け、バス総合案内システムの設置やバス停の集約によってバス、鉄道の乗り継ぎを向上させるなど、過度の自動車利用から公共交通活用への移行を図っている。同市は既に8路線でバス専用レーンを導入しているが、さらに郊外でのバス専用レーンの導入も検討する予定。PTPSの整備も計画している。
だが、C市の交通担当者はバスレーンやPTPSの必要性を指摘しながらも、「PTPSを導入して渋滞が一層激しくなったのでは、公共の利益に反する場合も考えられる」と懸念している。まだPTPSを導入していない同市では、依然として自家用車の利便性が公共交通に勝り、自家用車の利用が減っていないという。しかし、PTPSなどで自家用車の利便性を低めると同時に、公共交通の利便性を向上させ、公共交通を自家用車利用者の代替交通手段として提供できれば、公共の利益に反することにはならない。
もちろん、自家用車が必要なケースがあることは決して否定できない。公共交通が整備されていない地域の住民や、障害者、高齢者、保育園や託児所への送り迎えなどには、自家用車が不可欠である。B市の交通担当者は、「自家用車には一定の利便性がある。むやみに公共交通を促進するのではなく、自動車と公共交通のバランスを実現しなければならないが、どのくらいが双方の最適なウェイトなのか、判断に苦慮している」と述べる。
この最適なバランスは、TDM施策を進めている多くの自治体が直面している課題だろう。しかし、中心市街地での駐車場案内システムの整備など、自家用車の利便性を向上させる施策が、TDMの総合的戦略に基づく検討を経ずに公共交通促進策と共存し、効果を相殺しているケースも見受けられる。TDMを実施する自治体に求められるのは、自動車の利便性を一定レベルまで低下させる思い切った施策を厭わず、公共交通による代替交通手段を保証しながら、情報提供、バスレーン、PTPS、乗り継ぎ利便性の向上など多様な施策を体系的に組み上げ、実行することである。
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