<総力特集 地上デジタル放送カウントダウン'03年問題>
広告放送

2002年12月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい
広告放送の指標で重宝した「視聴率」
調査会社(ビデオリサーチ)は地上デジタルで
どういった「視聴率」と「数字」を考えているのか

 「視聴率」という数字は、善くも悪しくもテレビ事業を左右する数字である。その理由はいたって簡単。どれぐらいのテレビ視聴者に、広告主のメッセージが到達したかを、ズバリ「数字」で示してくれるからだ。では、デジタル放送になると、視聴率は果たして−−。
(吉井 勇=月刊ニューメディア編集長)


CM放送枠の販売を決める
視聴率と「GRP」

 「あなたの知人、友人で視聴率調査のモニターになった方いますか」。残念ながら、筆者の周りで聞いたことはない。1962年の調査開始から40年も経るのに誰もいない。それだけ「秘密」が厳守されているのだろうか。
 さて、手元にある「視聴率調査開始(1962年)からの全国高視聴率ベスト50」というビデオリサーチの資料によると、これまでの視聴率最高は1963年の『第14回NHK紅白歌合戦』で81.4%という超お化け数字。2位は『東京オリンピック・女子バレー「日本×ソ連」戦ほか』で66.8%。3位になってやっと民放の日本テレビ『プロレス「デストロイヤー×力道山」が64.0%で登場。ベスト20のリストをみると、NHKが13、民放が7と広告放送の指標として導入された視聴率の数字は、NHKのすごさを示す皮肉な結果となっている。ベスト50に唯一ランクインしたバラエティ番組『8時だヨ!全員集合』(TBS)が光る。
 こうして数字によって並べると、非常にわかりやすい。この「わかりやすさ」こそ、視聴率の持つ特性だろう。
 CMの枠は、民放連で週の総放送時間あたり18%と決めており、限られた枠をいかに高く売るかが民放事業の基本というわけだ。このCM料を決める根拠に視聴率が使われているのは、ご存知の通り。CMの視聴率を合計したGRP(グロス・レーティング・ポイント、延べ視聴率)という数値が使われる。3,000GRPの契約なら、視聴率15%で200本、10%で300本というように低い視聴率では多くのCMを流すことになる。つまり、視聴率を稼ぐ局ほどCM枠を高くして売ることができ、収入増に結びつくのである。

デジタル放送による視聴変化
「タイムシフト」

 視聴率は「世帯視聴率」と「個人視聴率」にわかれ、全国27地区、6,250世帯を調査対象にして行われている。関東、関西地区は600世帯、名古屋地区は250世帯、それ以外の地区は200世帯のサンプル数で行われている。この視聴率の数字から、視聴者の「何世帯」「何人」を推定する場合、調査エリア内の世帯数と4歳以上の人口をもとにして計算すると、調査会社のビデオリサーチは説明する。
 では、地上デジタル放送が開始されると、この視聴率はどう変化するのか。この点を、ビデオリサーチ・デジタル戦略室のデジタルメディア部を担当する尾関光司部長に聞いた。
 「デジタル放送によってテレビ視聴というスタイルが大きく変わる」と述べ、具体的に3つの変化があると整理した。
(1)いつでも、どこでも、という「ユビキタス」化
(2)ハードディスク(HD)レコーダーなども含め、視聴デバイスの変化
(3)通信ネットワークのブロードバンド化によるコンテンツ配信サービスの台頭
 これらによって、これまで時間軸をもとに編成されてきたテレビ放送と視聴行動が、根本から変わると指摘する。「タイムシフト」というわけだ。HDレコーダーに記録しておき、好きな時に再生して見るスタイルでは、番組接触の時間はずれるものの、「番組は見ている」のである。そうすると、視聴率をもとに時間帯をもとにしたCM枠の売り方がどうなるか。視聴率とCM価格の蜜月関係が終焉するかもしれない。

説得性のあるデジタル放送視聴率
もう一つの最大の焦点

 具体的に、地上デジタル放送になると視聴率の形はどうなるのかを聞いてみた。まず、2003年から始まる「サイマル放送」では、視聴率をどう計算するのか。「当初はアナログ放送が中心であり、視聴者数も多いので、合計する考え方でしょうか」
 では、デジタル放送が本格化し、その高機能特性が発揮されてきたとき、視聴率はどうなるのか。尾関部長は「まだ放送サービスの全体像が見えないので結論的なことは言えないが、考えていく上で5つのキーワードがある」と話す。
(1)多チャンネル
(2)タイムシフト
(3)モバイル
(4)パソコンも含むマルチデバイス
(5)双方向性
 アナログ放送は、放送局と広告主、視聴者の間は一方的な単線型事業であったが、デジタル放送では多彩な複線、複々線型の事業へ変化する。そのとき、視聴という「軌跡」をどう数値化するのか。「スーパーリーチ・メディアとして、到達効率の良いメディア」というテレビ放送を象徴してきた「視聴率」。この単純にしてわかりやすい魔法の数字に代わる「デジタル視聴率」とは何か。デジタル放送の事業者たちにとって最大の関心事ではないか。



広告主は地上デジタル放送で
ハイビジョンCM制作を
いつから本格化するのか

 国内の広告市場は6兆円、そのうちテレビ広告は約2兆円を占める。地上アナログ・テレビ放送は、瞬時に4,700万世帯に到達する「リーチ力」で“キング・オブ・メディア”の称号を得る。地上デジタル放送に向けた広告主たちの準備はどうか。
(吉井 勇=月刊ニューメディア編集長)


テレビの広告パワーを
崩さないこと

 広告主が集まる組織である(社)日本広告主協会(略称、主協)に「ディジタルメディア委員会」がある。会員127社で構成されるこの委員会は、デジタル放送、インターネット、モバイル、ブロードバンドなどのメディア動向を検討するもので、委員長会社のNECで担当する紫尾淳一・宣伝部マネージャーは、CM提供者の立場から、地上デジタル放送について現在どういった課題意識があるのかを次のように話す。
 「まだ地上デジタル放送の具体的なサービスプランが見えないこともあり、正直なところ期待と不安が入り交じっています。基本的には、これまでのテレビ放送が築いてきた広告メディアとして抜群の効率性と、その仕組みを崩さないでもらいたいという考えです」 
 そして、地上テレビ放送は広告メディアの「キング・オブ・メディア」だと力説した。
 地上デジタル放送の期待として、「これまで実現できなかったターゲティング・メディアとしての可能性」だと言う。不安については「リーチの目減りと、多様なメディアへの形態対応でコスト増になること」ともらす。
 つまり、広告主は現在の地上テレビ放送の広告パワーと効果を殺ぐことなく、より個人を対象にするターゲティングというマーケティング力を持たせたいわけだ。

CM画角、データ放送利用、
ケータイCMなど意見分かれる

 さらにサイマル放送期間には、CM映像の画角をどうするかという悩みがあると話す。ハイビジョンは16:9のワイドであり、一方アナログ放送では4:3。このため、CM素材を2種類用意するとなると、ハイビジョンCM制作のコストアップも絡んで負担増になると指摘する。
 このあたりについて各広告主へアンケート調査(2002年1月末実施)したが、「画角」への質問では意見が大きく分かれたそうだ。
 また、ターゲティングで期待できるデジタル放送のデータ放送を利用した高機能双方向CMとハイビジョンの高画質CMのどちらに期待があるかの質問にも、真っ二つに意見が分かれたという。
 ケータイ放送向けCMについても、「魅力がある」「ない」「どちらとも言えない」という3つの意見に、これまた均等に分散したというのである。まさに紫尾マネージャーが話した「期待と不安が入り交じる」という言葉を裏付けるものとなった。
 さらに「ハイビジョンCMの本格的な制作も含め、やはり動くのは1,000万世帯への普及がきっかけになるでしょう」と目安を話す。多メディア時代になり、相対的にテレビ視聴が目減りしていくことはあっても、広告主たちのテレビCMへの意欲は変わらない。
 これからの検討事項として、「視聴率」というわかりやすい指標が地上デジタル放送でどうなるのか。また、データ放送やケータイ放送についても、その指標づくりが必要となってくるはずだ。



(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

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