<日米韓ブロードバンド国家戦略の最新事情(第4回)>
カナダ
機能的な組織を中心とした先進的な回線運用・管理に注目

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授

ブロードバンド普及の現状−−
対世帯数比率で世界第2位のカナダ

 2001年末におけるブロードバンドの普及率の世界ベスト3(注1)は以下の通りであった。カナダは、韓国には引き離されているものの、米国に大きな差をつけて堂々の2位である。

CANARIE−−
ブロードバンド構築・普及の中心組織

 カナダのブロードバンド構築と普及を担当しているのは、政府、業界、学界などが協力して1993年に設立したNPOであるCANARIE(注4)(カナダ研究産業教育・高度ネットワーク)だ。主な資金は連邦政府のカナダ産業省(Industry Canada)から支出されているので、一種の公団組織といってもよいだろう。
 CANARIEは、現在200件以上の研究・開発プロジェクトをサポートしているが、次に述べる3つのレベルがある。
 第一は、国家規模のバックボーンのネットワークであるCA*Net3、第二は、ORAN(注5)と呼ばれる州単位のネットワーク、そして第三のレベルは「コミュニティ・ネットワーク」と呼ばれるローカル単位のネットワークである。

CA*Net3−−
無料で利用可能な光基幹回線

 大学、研究機関、学校、企業等に、研究教育用の光ファイバーによる基幹バックボーン・ネットワークを敷設する計画。1990年に始まった構想で、段階的にグレードアップされている。CA*Net2からはATMベースになった。1998年のCA*Net3からはDWDMベース。現在米国との国境沿いに、主要都市(米国とのゲートウェイとしてシカゴも入っている)を東西に結んだ基幹回線が敷設されている。利用者には一定の資格が必要だが、無料で利用することができる。
 すでに次世代のCA*Net4構想が進んでいるが、その哲学はユーザー自らが管理するネットワークである。管理の対象は光ファイバーだけでなく、その中を通る波長も対象とする。次に説明するコンドミニアム・ファイバー方式やCustomer Owned Dark Fiber、そのSwap & Tradeによって部分的に実行されている。

ORAN−−
州単位でも光ネットワーク構築を推進

 これは主に州単位のネットワークである。たとえば、ニューファンドランド、プリンス・エドワード島ではギガビットイーサ・オーバーDWDMのネットワークが構築されている。ニューブルンスウィックでは、300万カナダドルの予算で3つの大学がダーク・ファイバーで結ばれた。ケベックでは1,500kmの光ファイバー・ネットワークが構築された。オタワでは30カ所を結ぶ自治体のダーク・ファイバーが完成している。さらにオンタリオでは、民間の光ファイバー・ネットワークですべての大学を結ぶという、ORIONプロジェクトが進行している。

コミュニティ・ネットワーク−−
公共施設等での光網共有が進む

 ここでいうコミュニティとは、生活単位としてのローカル・コミュニティである。コミュニティにおけるネットワークの構築には、地域行政や学校、病院、図書館といった公共施設が中心的な役割を担っており、その構築・運営の方式は「コンドミニアム・ファイバー」と呼ばれている。まだ一部の地域にとどまっているが、急速に広まりつつある方式である。大学、図書館、学校、消費者などのユーザーか、またはユーザー同士が共同して、光ファイバー網を構築して所有し、かつ網を運営・管理するものだ。
 光ファイバー化により伝送能力が飛躍的に大きくなって帯域がコモディティ化(注6)すると、自己の欲する地域の回線と他社の回線でスワップ取引等を行うことにより、自分で回線を敷設しなくても、自分自身のネットワークを広くかつ支配的に所有することが可能になる。コンドミニアム・ファイバー方式においては、こうしたユーザーが自ら管理する光ファイバーネットワークによるLANを次から次へと接続していくことにより、自律的なネットワークの増殖が始まっている。ちょうどインターネットの歴史における創世記を見るようである。

Customer Owned Dark Fiber−−
顧客が所有するネットワークの時代へ

 コンドミニアム・ファイバー方式で行われている光ファイバーの構築・運営形態はCustomer Owned Dark Fiber(顧客所有ダーク・ファイバー)と呼ばれている。今後、世界中に広がると考えられる可能性がある電気通信における新しい形態といってよいだろう。ダーク・ファイバーとは、通常は電気通信事業者がファイバーに光を通していない、つまり「暗い」状態で利用者にファイバーを貸与して、これに利用者が各種の通信機器を設置して自由に使う形態をいうが、この場合は利用者が自らこれを構築して所有・運営する。非常に大容量の帯域を安価に使用することができるが、そのかわり効率的に使いこなせない場合があるというリスクが生じる。
 CANARIEによれば、ダーク・ファイバーの投資回収に要する期間は、通信事業者による通常の通信サービスを利用した時のコストとの差額から計算すると、12〜18カ月という短期間である。回収期間がこのように短いうえに、その後20年間にわたって長期の利用に耐えるネットワークが顧客の手元に残るので、帯域幅需要の増加にもローカル回線のコスト増なしに対応することができる。
 デイビッド・アイゼンバーグ(注7)は、「株式市場におけるテレコム産業の凋落を解釈する一つの見方は、電気通信事業においてキャリアがサービスする時代が終わって、顧客が所有するネットワークの時代が始まりつつあるというものだ。我々はいまや、光ネットワークで使用する機材(とくに光を発する設備)、その速度、光ファイバーの接続先、欲するネットワーク・リダンダンシーとそのために支払う用意のある価格、自分が接続しているゲートウェイ、POP、サービス・プロバイダー等のすべてを、自分で決めるようになりつつある。また、現在我々が各種の端末を所有しているのと同様に、個人や家庭のネットワークからさらに都市ネットワークや長距離ネットワークの一部まで、自前で持つようになるだろう。つまり、自分の光ファイバーや自分の波長をもつようになるわけだ」と指摘(注8)している。

電気通信事業者の新たな役割−−
高度な専門性と電子取引所業務に期待

 コンドミニアム・ファイバー方式においては、顧客所有ダーク・ファイバーの上でスイッチングなしに、それぞれのユーザーに割り当てられる波長によって相互接続される。広帯域で常時接続されているので、時間課金もトラフィック課金もなくなる。
 しかし、それによって電気通信事業者の仕事がなくなってしまうわけではない。利用者に代わって光ファイバーを敷設、通信機器を設置・接続し、運営やメインテナンスも請け負う。さらに安全性・機密性、テレフォニー、その他のますます高度な専門性が要求されるサービスを提供することだ。また、回線のスワップ取引を仲介する伝送能力の電子取引所業務も、電気通信事業者の新しいプラットフォーム・サービスになるに違いない。

ブロードバンド・タスクフォース−−
ブロードバンド普及の具体策を提言

 2000年10月、カナダ政府は2004年までに、すべてのコミュニティが高速ブロードバンドアクセスを利用できるようにすると決定したこと、およびその実行の具体策を検討・提言してもらうために、「ナショナル・ブロードバンド・タスクフォース」を設立した。ウォータールー大学のデビッド・ジョンストン学長が議長として検討を行い、2001年6月にトービン産業相(当時)に答申を提出した。13億〜19億ドルに上る投資をともなう具体策が提言されている。

結語−−
カナダ式構築・運営には教訓多し

 上に述べたカナダのブロードバンド事情には、ブロードバンド構築について官民の役割の一例、その運営哲学、今後の電気通信事業のあり方についての壮大な実験などの極めて貴重、かつ有益な教訓が多く含まれている。日本としても、積極的にこれを研究して「e-Japan計画」に取り入れる必要があるだろう。(完)


(注1)韓国の数字以外は米国の調査会社eMarketerの調べによる。ちなみに日本は1500千人で対処対数比率は3.36%であった。
(注2=当サイトには掲載していない表の注)eMarketerの調べでは40%となっているが、韓国情報通信部による「グローバルリーダー、e-Korea建設」2002.3.13発表によると、総世帯の55.2%に該当する794万世帯が超高速インターネットに加入しているとあるので、こちらを採用した。
(注3=当サイトには掲載していない表の注)ブロードバンドの普及率を表現する場合には、対世帯数比率がよく用いられる。同一世帯内ではLANを敷設して複数の利用者が接続する場合が多いからである。
(注4)Canadian Advanced Network for Research, Industry, and Educationの略。カナダ研究産業教育・高度ネットワーク。
(注5)Optical Regional Advanced Networkの略。
(注6)技術の発達や標準化等により品質が均一化して、その結果価格だけで先物取引やスワップ取引などの高度の資本主義的取引を行うことが出来るようになること。大量取引が可能になるが価格は傾向的に低落する。これに対し広告宣伝やブランド化により差別化を推進する商品はマーチャンダイズである。
(注7)David Isenberg:元AT&T技術者の情報通信評論家。スチューピッド・ネットワーク論で有名。
(注8)「The Era of Customer-Owned Networks」 by David Isenberg SMART Letter #56 2001.06.07より翻訳。






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