<ケーブルテレビ経営戦略2003、成長継続の活路を探せ!>
ケーブルテレビ経営を直撃する「地上デジタル再送信」問題

2003年8月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

 日本のケーブルテレビの原点は、「再送信」にあった。東京のテレビを見たいと考えた先駆者が、東京タワーから発信される放送局の電波を、微弱であっても受信できるポイントを見つけ、そこからケーブルを使って配信したものであった。現在でいう「区域外再送信」ということになる。アナログ放送がデジタル化されるときを迎え、この「再送信」が新たな問題として浮かび上がってきた。その問題点を整理しておこう。
(吉井 勇=月刊ニューメディア編集長)


地上デジタル波が与える
ケーブルテレビへの衝撃“波”

 12月1日、東名阪で地上デジタルの電波が発射される。この電波をさまざまな思いで見つめるのは、ケーブルテレビの経営者であろうか。地上デジタルの電波は、現在の受信点まで到達するのか。特に、ゴースト障害に強く、「室内アンテナでも十分見られるはず」とのことから、ビル陰などの電波障害エリアにどんな影響が出るのか。対象エリアが変わるのか、規模が縮小するのか、拡大するのか、などである。日本のケーブルテレビ事業を支えてきた電波障害対策費用にも直結するため、これだけでも大問題である。
 それだけではない。これまで地上テレビ放送を「再送信」していたが、デジタル化でどうなるのか。地元放送局の対象「区域内」と、区域を越えた「区域外」の場合で、地上デジタルの「再送信」をどう考え、対応するべきか。アナログとデジタルのサイマル放送期間中ではどうすべきか、といった問題が山積している。放送開始を直前にして、ケーブルテレビ、地上テレビ放送局の双方から「この問題解決は非常に微妙であり、複雑だ」という声が聞こえる。

二度の大臣裁定で確立してきた
アナログ放送の「再送信」ルール

 実は、過去にアナログ放送の「再送信」をめぐって「大臣裁定」が二度にわたって行われていたのである。
 そもそも「再送信同意」という制度は、1972年に制定された「有線テレビジョン放送法」にさかのぼる。そのねらいについて、総務省地域放送課の西岡邦彦・課長補佐は「地上テレビ放送とケーブルテレビの調和と秩序を維持するために定めたもので、地上テレビ放送局の放送の意図を勝手に改ざんされるのを防ぐことにあった」と説明する。ところが、同意するかどうかは地上テレビ局に委ねられるため、同意が得られないことがあった。当初は「あっせん」という仲介であったために解決には至らなかったことも多く、そこで1986年5月に法的拘束力のある郵政大臣(当時)「裁定」制度が導入された(有テレ法・第13条)。
 この裁定制度により、1987年7月に「山陰ケーブルビジョン」(島根県松江市)が兵庫県内を対象エリアとする「サンテレビジョン」に、1993年6月に「高知ケーブルテレビ」(高知県高知市)が岡山県と香川県を対象エリアとする「テレビせとうち」に対して申し立て、「再送信することに同意しなければならない」という裁定結果を得ている。
 これに加え、もう一つの事情が重なる。地上テレビ局の4局体制が主流となってきたのは平成新局の誕生があってからで、それまでは2局、3局のエリアが多くあったことから、区域外の放送電波を受信して放送するというケーブルテレビが誕生してきたのである。ケーブルテレビ局が先に開局し、地元民放局が後になったところも多い。
 こうした経緯から、日本ケーブルテレビ連盟「区域外再送信調査会」委員長の佐藤英生・大分ケーブルテレコム社長は「これまでの流れから判断すべきだ」と訴え、「すでに放送を見ている視聴者に、デジタル化されたので明日からは見ていただけません、というのでは視聴者不在ではないか。デジタル化は国策であることから、アナログ放送の慣例が生きるものと考えている」と力説する。

地上デジタルの再送信問題は
電気通信役務利用放送にも絡む

 一方の当事者である地上テレビ局は、どう考えているか。民放連の地上デジタル放送特別委員会「デジタルテレビ専門部会」のメンバーである田島俊・毎日放送役員待遇メディア・技術副本部長兼メディア開発局長は、「地上デジタルの普及の観点から積極的に対応することが重要」という姿勢を強調しながら、再送信問題には2つの対応が求められると話す。「区域内再送信」と呼ばれる地元放送局のエリア内と、放送エリアを超えた「区域外再送信」への対応である。
 区域内再送信については、BSデジタル放送で多いアナログ方式へ変換して再送信する方法を認めるかどうか。「アナログ変換による再送信は普及しやすいが、いつまでもアナログ変換していてはデジタル特有の付加価値サービスが生きてこない」という矛盾にぶつかる。これはケーブルテレビにとって、伝送路の広帯域化などの投資問題とも重なる。
 区域外再送信になると、問題は一層複雑になる。まず、地上デジタル放送が開始されていないエリアで区域外再送信が認められると、地元テレビ局のデジタル普及に大きなマイナスが生じると指摘する。また、放送エリアを越えた場合、著作権の処理問題も絡む。
 サイマル放送期間の対応として、「基本的には区域内、外を問わず、アナログ放送は現行の延長で考えるが、デジタル放送についてはそのまま認めるものではない」というのが、地上テレビ局関係者の考えにあるようだ。
 「さらには」と、キー局関係者は声を強める。BBケーブルTVの放送が開始され、ADSLや光ファイバーを使った電気通信役務利用放送が本格化してきた。KDDIやスカイパーフェクTVも同様の事業に進出するという計画が発表されたが、こうした「第2種」のケーブルテレビ放送は全国を対象にできるわけで、再送信の要望が出たらどうするのか。また、ケーブルテレビ事業自体も広域連携やMSO化が進むなど、区域外を串刺す動きも目立つ。「そうなると地方民放局がネット番組を流す意味がなくなり、事業の根幹が揺らぐ」。
 こうした難題に総務省は、「再送信同意は、基本的に民間事業者同士の話であり、地上デジタル放送の再送信についても協議が尽くされることを期待しているが、仮に問題が生じた場合、地上デジタル放送の円滑な普及という観点から、行政としても必要な調整を行う」と、西岡課長補佐は力説した。
 現在のところ、この再送信同意について地上テレビ局とケーブルテレビ局が話し合う場は、まだできていない。




(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

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