地上デジタル放送試験電波を発射

2003年10月号掲載(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

 地上デジタル放送の試験電波が東京タワーから発射された。デジタルの地上波が少し顔を見せたのである。同じ時、大阪・生駒山の各局テレビ鉄塔からも発射された。なお、中京エリアは新しい瀬戸テレビ塔の建設段階であり、今回の電波発射は行っていない。
(吉井 勇=月刊ニューメディア編集長)


東京タワーからフルパワー10kW
試験電波を関東エリアへ発射

 8月5日の深夜、正確には6日(木)午前2時38分に、地上デジタル放送の試験電波を発射するスイッチが押された。関東広域圏エリアでは東京タワーから、近畿広域圏エリアでは生駒山の各局送信タワーから地上デジタルの電波が送り出された。その瞬間を、東京タワーにあるNHKの送信所で取材した。
 45年を迎えた東京タワーからは、関東広域圏のフルパワー10kW(MXテレビは都内域のため3kW)の出力で発射され、近畿広域圏では生駒山にある各局の送信タワーから近畿圏のフルパワー3kWで発射された。
 今回の試験電波は、8月6日から20日までの間に断続的に行われた。NHK総合については約300W、NHK教育、日テレ、TBS、フジ、テレ朝、テレ東、MXは約15Wの小電力で発射する第1段階と、その後、2004年あたりを目途とする第2段階の送信出力を経てフルパワー出力を行い、その間にいくつかの測定と検証が展開された。なお、試験電波は13セグメントのうち、12セグメントでハイビジョン映像、1セグメントでは音声のみが送られて検証された。
 最も重要な測定は、本免許を取得するために必要な送信機能を有しているかどうかを調べるもので、関東広域圏では30カ所を選んで電界強度を確認する作業が展開された。今回の試験電波による主なテスト項目は以下の通り。
(1)デジタル放送用の送信設備の機器性能検査
(2)地上デジタル放送免許取得のための認定点検
(3)第1段階、第2段階、フルパワーの第3段階のエリア確認
(4)既存アナログ受信者への影響の検証
 この他、受信機メーカー各社では、地上デジタル受信対応の受信機が正確に作動するかどうかの確認を、この試験電波を利用して行っている。また、日本方式の特徴である移動受信でも、車による受信テストを行ったところや、1セグ放送用のケータイ型受信機では音声に限定した受信が、いくつかの社でテストされたという。

東京タワーに新設した
デジタル放送の送信アンテナ

 東京タワーの展望台近くの2フロアに設けられた地上デジタル放送の送信所。NHKは(社)デジタルラジオ推進協会と同じフロアにあり、その階下には民放キー5局の送信機が設置されている。これらのテレビ放送の送信機は、すべて『共通仕様』(通称「オレンジブック」)に基づいたものとなっている。
 東京タワーのアンテナは、双ループアンテナ型式で、1段あたり30基を円筒状に配置したものを縦に10段設置し、直径約13m、高さ12m、重量約40tとなっている。ここから21chから27chまでの7チャンネル(NHK総合、NHK教育、民放5局)が、わが国最大の10kW出力で送信される。
 今回の試験電波では、各局が独自に用意した番組を送り出した。免許取得のための測定試験では、静止画のテストパターンを送るものだったが、デジタル放送に対応して法が改正され、デジタルの特徴である圧縮確認ができるように動画を用いることになった。このために、地上デジタルテレビジョン受信機テストセンター(会長:橋本元一・NHK理事、一般会員:42社、賛助会員:57社、特別会員:3社)で地上デジタル放送規格にエンコードし、ハードディスクに蓄積して各局の入力盤に接続し、OFDM変調して送信したのである。

8波のすべてを
受信スペクトラム測定

 午前2時35分、アナログ電波はNHKと民放の番組が終了した時点で静止画に切り替えて放送。その3分後の38分から地上デジタルの試験電波を発射するというスケジュールで行われた。3分間遅らせて発射したのは、アナログ放送波への影響の有無を確認するためのもので、一日の発射実験が終わる午前4時30分までアナログ波による静止画放送は行われた。このためにアナアナ変更作業を終了していない地域では、該当する送信局のアナログ波を停波する作業を人手で行った。サイマル放送時における互いの電波の影響を調べるもので、移行期にとって大事なデータ収集である。
 本免許取得に必要な受信データは、関東広域圏で30カ所を選定して収集した。10台の電界強度測定車を配置し、東京タワーから直接受ける電波と、地面などに反射してくる電波の電界強度について8波全部を測定した。測定車が備える高さ10mまで届くアンテナを、0.5m刻みに高さを変えながら受信したスペクトラムの波形などを記録した結果を集めて、当日の朝7時からの判定会議で検討するというスケジュールで進んでいった。

チャンネル切替時に
1秒近いロス

 テレビで受信画面を見る機会を得た。地上デジタル受信機能を備えた内蔵型テレビと、開発中のSTBによるもので、受信に使ったアンテナは、市販されている室内用のポータブルタイプ。午前2時35分までのアナログ放送による通常の番組では、室内アンテナ特有のビートノイズがあったが、地上デジタル放送に切り替わった途端、一切のノイズから解放され、デジタルハイビジョンのきれいな画面になった。
 また、開発中のSTBはSD出力であったため、ダウンコンバートした画面は色の再現性などに課題を残しながらも、画質面でも高いレベルを示していた。少し気になったことを挙げると、チャンネルを切り替える時に約1秒近いロスがあり、瞬時に切り替わるアナログ放送からすれば、少しストレスを感じることが、慣れの問題だろう。
 試験電波とはいえ、「やっぱりデジタル放送の魅力はハイビジョンにある」−−改めて、そう確信した。




(※記事の抜粋。全文は本誌をお読み下さい

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