「雷の被害が増えて困っている」というケーブルテレビ事業者の声がよく聞かれるようになった。しかし、ケーブル局での雷害に関する情報はあまり発表されていない。そこで、雷の多い地域のケーブル局を対象に、雷害の実態と対策について調査を行った(調査方法は55頁の「調査概要」参照)。58〜59頁のケーブル局向け雷対策製品の解説も、併せて参考にしていただきたい。
(調査・レポート:渡辺 元=本誌編集部) |
雷害増加の要因はケーブルモデム
ケーブル局の雷害は本当に増えているのだろうか? 調査ではまず、最近の雷害の頻度について質問した(図1)。結果は「増えている」が5割に達し、「変わらない」が27.8%、「減っている」が22.2%。半数のケーブル局で雷害が増加していることが明らかになった。
増加の理由は、被害の内容から推測できる。どの機器が被害を受けたかという質問に対しては、ケーブルモデムを挙げた局の数が19局中18局と最も多かった(図2)。また、1局あたりの平均故障台数が最も多いのもケーブルモデムで、平均34.2台(図3)。これらの結果は、ケーブルインターネット事業の開始やインターネット加入者の増加によってケーブルモデムの台数が増えたことが、雷害増加の要因であることを示している。
平均故障台数の2位は宅内ブースター(17.9台)で、ケーブルモデムの約半数に過ぎない。回答のコメントでも、「ケーブルモデムの被害が増えている」「雷害はケーブルモデムに集中している」「雷が多い年には、ケーブルモデムへの被害が毎日続いたこともある」「今夏はケーブルインターネット事業を始めて最初の雷のシーズンだった。やはりケーブルモデムは雷に非常に弱いと感じた」など、ケーブルモデムに被害が集中しているという実態を示すものが多かった。
ケーブルモデムの被害規模の分布については、故障台数20台未満の局が最も多く(6局)、故障台数が増えるにしたがって局数が減っていく(図4)。しかし、ここで注意しなければならないのは、少数ではあるが、100台以上故障した局もあることだ。今回の調査対象にはなっていないが、中部地方のある局では、1シーズンに約200台のケーブルモデムが故障した。多いときには、1回の落雷で約50台が一度に故障したこともあるという。雷の発生数は、地域だけでなく年によっても大きく変化する。これまで被害が少ないため安心していると、突然大きな被害を受ける可能性も十分にある。
雷害の被害額は少なくない。ケーブルモデムが年間約30台、ホームターミナルが約40台、宅内ブースターが約50台故障しているある局の被害額は、年間約200万円に上っている。ケーブルモデムメーカーが修理費用を負担したり、損害保険で賄われる部分もあるため、最終的な局の負担は軽くなってはいる。しかし、機器交換のための出張コストは局側で負担するケースが多い。ケーブルモデムが年間約100台、ホームターミナルが約20台故障しているある局では、出張コストが1件につき約4,000円かかっている。合計すると年間約40万円の負担になっているわけである。インターネット接続サービスで激しい低価格競争を繰り広げている状況下では、決して小さな被害とは言えない。
電源線からの雷サージ侵入に注意
ケーブルモデムが雷害を受けやすい理由には、次のようなものが考えられる。
(1)日本の家屋の特徴として、電源線と同軸ケーブルのそれぞれの接地線が接続されていないことが多いため、電源線と同軸ケーブルの間に電位差が生じ、雷サージ(過電圧)が流れてしまう。
(2)ケーブルモデムは電源線、同軸ケーブル、LANケーブルに接続されており、雷サージの侵入路が多い。
(3)耐雷性能の強化が不十分なケーブルモデムメーカーがある。
調査した各局では、さまざまな方法でこれらに対処している。
まず、ケーブルモデムへの雷サージの侵入を防ぐという方法がある。侵入路には電源線、同軸ケーブル、LANケーブルがあるが、実際には、「同軸ケーブルから雷が侵入するように思われがちだが、ほとんどの場合、電源部からの侵入」(ケーブル局技術部課長)である。今回の調査対象ではないが、雷が多い地域で営業し、雷対策に大変力を入れているひまわりネットワーク(愛知県豊田市)では、メーカーの実験施設で雷と同レベルの数パターンのサージを保安器にかける実験をしたところ、幹線側から保安器を通過したものはなかった。別の局でも外部の研究所でサージの侵入路について実験し、「家庭内の電気系統に避雷器を設置しなければ、雷サージを阻止できない」という結論に達したという。今回調査、取材した局の一部では、コンセントタイプの雷サージプロテクターをケーブルモデムの電源部に取り付け、電源線からの雷サージの侵入を防いでいる。
もちろん同軸ケーブルでの対策も必要である。ひまわりネットワークでは、一部地域での新規加入者のケーブルモデムのRFコネクターに、外付けの雷サージブロックフィルターを取り付けている。別の局では既存の企業ユーザーから優先的に取り付けを開始し、最終的に全ユーザーに導入する計画である。
雷サージを阻止する確実な方法は、落雷の危険があるときには線を抜いてしまうことだ。ひまわりネットワークではWebサイトの「雷対策についてのお知らせ」コーナーで、雷が接近したら、パソコン、ケーブルモデムの電源をコンセントから抜き、LANケーブルもケーブルモデムから外すよう、加入者に協力を呼びかけている。このコーナーは中部電力の雷情報のWebサイトにリンクが張られ、加入者が雷に関する最新の気象情報を参照して判断できるようになっている。
その他の対策としては、電源線と通信線をバイパスで接続し、一カ所で接地させるための機器や、電源線に接地する耐雷トランスなどが販売されている。
耐雷性能実験でメーカー間に大差
前述の原因(3)の、耐雷性能が不十分なケーブルモデムの存在を指摘する局は多い。今回の調査では、「特定メーカーのケーブルモデムだけが雷害に弱い。メーカー側の対策が足りない」「3社のケーブルモデムをA社が6割、B社とC社が2割ずつという台数比率で使用しているが、雷で故障するのはほとんどA社製」といった声が聞かれた。
カタログのスペックを参考にして耐雷性能の高い製品を採用している局もあるが、ひまわりネットワークでは各メーカーのケーブルモデムの耐雷性能を実験によって検証した。実験設備が充実している、あるケーブルモデムメーカーの協力を得て、同社を含む5社のケーブルモデムを持ち込み、電源、同軸ケーブル、LANケーブルの各ポートに電圧を加えた。この実験で破壊した製品は数十台に及んだ。その結果、各メーカーの耐雷性能の差がはっきり現れた。
同局営業部の倉地公彦課長は、「一部地域での新規のお客様には、実験の結果最も雷に強かった製品に、さらに雷サージブロックフィルターを外付けして貸し出している。今夏、一度に約20台のケーブルモデムが被害を受けたときも、この製品の故障は1台のみだった(被害があった地域では、この製品の貸出台数は全体の約3割)」と実験の成果を述べる。局がメーカーに実験の協力を得るのが難しい場合は、実験設備を持った大学に依頼する方法もあると、倉地課長はアドバイスする。局が共同で検証を行うのも一つの方法である。ある地域のケーブル局協議会では、ケーブルモデムの耐雷性能実験を既に実施している。
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