国内におけるハンバーガー業界の市場規模は6,667億円(2000年度)であり、うちマクドナルドは約65%という圧倒的シェアを誇っている。1971年7月、東京銀座に第1号店をオープンして以来、今日まで常に飛躍的な成長を遂げてきた。そして、2002年2月7日、日本マクドナルドは新会社「エブリデイ・マック」を立ち上げ、日本最大のeコマース・プラットフォーム事業を展開すると発表した。そこで、新たな商流を起こそうという日本マクドナルドのIT戦略を探ってみよう。
日本マクドナルドは今年、全国約4,000店の店舗を利用して、携帯電話やパソコンを使ったeビジネスを始める。藤田 田・日本マクドナルド社長は「これはハンバーガーを上回る事業になる」と語り、パートナーシップを組む大前研一・エブリデイ・ドット・コム社長は「日本一のBtoCのプラットホームを目指す」とぶち上げる。また、日本マクドナルドは、この新規事業と並行して店舗のIT化を進め、新しいタイプの店舗も登場させている。設立30周年を迎え、さらなる巨大な挑戦に踏み出すマック。そのITを駆使した新事業と新店舗戦略を紹介しよう。
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顧客満足をバーチャルの世界まで広げる
マクドナルドならではのeビジネス
マクドナルドで食事中の若いカップル。持ち帰り自由の情報誌をパラパラとめくっていた彼氏が、スキー情報に目を留めた。すると彼氏は携帯電話を取り出し、ページに印刷された小さなバーコードに当てた。そして、画面に表示された情報に驚いた様子で会話が始まる。
彼氏「見て見て。これ、さっきのパンフレットのツアーよりも得じゃないか?」
彼女「本当だ。安い。それに、こんな特典もついてるし、ね」
彼氏「これに決めないか?」
彼女「そうね」
彼氏「じゃあ、予約するよ」
彼女「今ここで、そのケータイで予約できちゃうの?」
彼氏「うん。あと、このカードを使えば、決済もできちゃうんだよ」
マック主義+ケータイで引き出す
まったく新しい消費行動
左記は、日本マクドナルドが今年始めるeコマース事業によって生まれる消費行動の、一つの想像図だ。
このサービスは、まず4月から社員とアルバイト店員を対象にスタートし、一般利用客向けには夏から会員募集とサービス提供が始まる。
会員には、携帯電話やパソコンにつける専用のマイクロバーコードリーダーと決済用のICカード(電子財布)が発行される。入会金や年会費はなく、マイクロバーコードリーダーやカードも当面は無料だ。
マクドナルドの各店には、このサービスのための無料の情報誌が置かれる。情報誌には、旅行情報の他、衣料・雑貨・化粧品・飲食店・映画・スポーツ・アミューズメントパークなどの情報を掲載し、それぞれにマイクロバーコードがつけられる。それをマイクロバーコードリーダーをつけた携帯電話やパソコンに読み取らせると、自動的にURL入力が行われ、インターネット上のより詳しい情報にアクセスできるという仕組みだ。
お客が手にできる情報は、単に詳しいだけではない。情報誌は月刊の予定だが、そこをゲートにして入るネットの情報は、提供者によって毎日でも毎時でも更新できる。「今日何時から特別にいくら」といった即時性のお買い得情報が得られるという新たなマーケティングの可能性もある。そして、欲しい情報が得られたら、その場で即座に予約・購入・決済まで行うことができるサービスなのである。
新規事業は、インターネットを使った生鮮品宅配事業などで実績のある(株)エブリデイ・ドット・コムと日本マクドナルド(株)が共同出資で設立した新会社「(株)エブリデイ・マック」が行う。
年間延べ13億人(回)の利用客
その幅広い層で離陸
エブリデイ・ドット・コムは、携帯電話やパソコンと連動させて使用するマイクロバーコードのシステムやカード決済のシステムなど、eビジネスのプラットフォームを提供。一方、日本マクドナルドは、全国約4,000店の店舗と、それを支えるITネットワークなどの巨大な事業資産を提供する。
そして、「いつでも、どこでも、誰にでも」というマクドナルドのコンセプトが、エブリデイ・マックが始めるeビジネスでも貫かれる。
携帯電話はいまや全世代に普及しており、専用マイクロバーコードリーダーによるインターネットアクセスは、携帯電話を電話にしか使わない人でも、なじみ深い雑誌という媒体を入口にして、簡単にできる。一方、その雑誌が置かれるマクドナルドの店舗は全国各地にあり、利用客は年間延べ13億人(回)にも上る。リアルの世界でこれほどの利便性と幅広い顧客層を確保してスタートするeビジネスは、未だかつてない。
「ハンバーガーの」から
「ハンバーガーも」トップ企業へ
今日の日本マクドナルドを一代で築いた稀代のベンチャー経営者・藤田 田社長が、「これはハンバーガーを上回る事業になる」と言い切り、数々のビジネス書ベストセラーでも知られるエブリデイ・ドット・コムの大前研一社長は、「日本一のBtoCのプラットホームを目指す」とぶち上げる。
日本マクドナルドは、あくなき顧客満足の追求によって、日本人の食生活に存在しなかったハンバーガーを定着させ、外食産業ナンバー1の地位を築いた。今回のeビジネスは、いわばマクドナルド主義のプラットホームに他企業・他業種のパワーも取り込んで、日本に(世界にも)まだ存在しない新しい消費行動を誕生させようとする挑戦である。
それを担うエブリデイ・マックの初代社長は、26年間ハンバーガービジネス一筋に歩んできた笠 真一氏。「分野違いの仕事に不安はないか」との問いに、彼もまた確信に満ちた言葉を返した。
「お客さまに提供するものは同じです。私たちはお客さまに、いかに便利でお得でうれしいと思ってもらえるか、そこを一番大事にしてきました。エブリデイ・マックでも、それは同じなんです」
ITも顧客満足のためのツール
これがマックの次世代型店舗だ
日本マクドナルドは、eビジネスへの進出のみならず、本業へのIT導入にも積極的だ。なかでも、設立30周年の記念店として横浜市青葉区にリニューアルオープン(2001年11月1日)した荏田西店は、ITを活用した楽しさ便利さを追求した次世代型店舗だ。
店内に入ると、真ん中に海水魚の水槽があるのに驚かされる。また、正面を見ると、カウンター上に38インチ×6面マルチ画面のデジタルメニューボードがあり、迫力のある動画でメニューを紹介している。カウンター前まで行くと、レジの背面にディスプレイがついていて、ここでも商品が紹介されている。その下にはショーケースがあり、本物の商品が並んで食欲をかきたてる。
商品を受け取って客席の方に向かうと、その周りに「マックBB(ブロードバンド)」というエンターテインメント情報端末が配置されている。若者たちが順番待ちしている。また、ゲーム感覚の「デジタルプレイランド」の前はいつも子供たちで大賑わいだ。
カウンターに並ばずにオーダーができる「タッチオーダーパネル」もある。これは、足の不自由な方などには、とりわけ便利だろう。ちなみに、同店は車いす用トイレも完備したバリアフリー店でもある。
住宅街の家族連れを主な対象とする次世代型店・荏田西店は大成功を収めた。これを受けて、現在、次なる次世代型店の開店を準備しているという。
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