●調査概要
・調査方法:全国のケーブル局にFAXで質問・回答用紙を送付、回収。
一部の回答者にはヒアリングも行った。
・調査期間:2002年3月26日〜4月10日
・有効回答:156局
調査では、ピンポイント気象情報サービスの実施状況、ニーズ、局の姿勢について、全国のケーブル局へのアンケートを実施し、156局から有効回答を得た。一部の回答者には、インタビューも行った。調査の結果、サービスは8割近い局が実施し(図1)、情報提供の方法(予定・検討中を含む)は放送(CS・コミュニティーチャンネル)のみで行う局が9割で、Webサイトの利用は1割足らずだということがわかった(図2)。局が予想するケーブルテレビ加入者のニーズについては、通勤、通学、買い物など外出のためと回答する局が最も多いが、農林水産業者や小売業者などが利用するという回答も多い(図3)。そして約85%の局が、ピンポイント気象情報はケーブル局のサービスとして必要だと認識しているという結果が出た(図4)。
ADSLとの差別化が狙い
ケーブル局がピンポイント気象情報サービスを重視しているのは、気象情報がADSLなど競合メディアに対抗するための戦略的サービスになると考えているからである。大分ケーブルテレビ放送の元吉伸一・技術局部長は、「Yahoo! BBなどADSLと競合するには、ケーブル局は地域色を出していくしかない。当社では、『ケーブルテレビはお客様の近くにいる』ということを打ち出している。気象情報は地域情報の中でもキラーコンテンツだ」と期待する。
通勤、通学など外出時には、自宅や目的地がある市町村別の天気を知りたい。しかしADSL事業者による気象情報は、特定の地域の天気を知りたい利用者のニーズにはなかなか応えきれない。ピンポイント気象情報をWebサイトに掲載することはできるが、利用者は目的の地域を選ぶ操作をしなければならない。
その点、地元の天気に特化した情報をテレビで簡単に見られるケーブルテレビの天気情報は便利である。大分ケーブルテレビ放送では、契約している気象情報サプライヤーのシステムが原因で放送が遅れたときには、すぐに視聴者からクレームが寄せられる程、よく利用されているという。
調査の回答では、釣り、ゴルフなどレジャーでのニーズを挙げる局もあった。テーマパーク、スタジアム、花火大会などのイベント会場、運動会、遠足といった学校行事の天気も、ピンポイントの必要がある。「一山越えれば天気が変わる」というような山間部では、特にそうである。
業務用気象情報の提供をケーブル局の役割として期待する局も多い。長野県のある局は、「農業従事者が特に多いこの地域では、有力なコンテンツだ」と期待する。東伊豆有線テレビ放送の庄司章局長は、「地上波などで放送している東伊豆地方全体の気象予報と、各市町村の天気は違う。農家の方々と話すと、現地に即した気象情報を当社に期待している。市町村単位の気象情報が必要だ。また、伊豆七島の漁場の天気予報も提供したい」と述べる。天候によって売り上げが変動する弁当屋などの製造業、小売業、さらに建設業など屋外で作業を行う事業者も、場所と時間を特定した詳細な気象情報を求めている。
このほか、九州のある局では、台風情報のニーズがあるという。河川の水位や山崩れ、雪害など地域の防災情報が求められていると回答した局も複数あった。
生活圏情報の総合メディアへ
地域性を強化するため、さらに狭いエリアの気象情報を望む局は多い。また、調査結果では放送チャンネルのみで情報提供している局が9割以上だが、Webサイトの活用を計画している局もある。テレビ画面での情報提供は、高齢者やパソコンの操作が苦手な人にとっては使いやすい。しかし、調べたいときすぐに情報を呼び出せないという欠点がある。そこで、現在はCSチャンネルのみで提供している首都圏のある局では、「早晩、インターネットに移行する。加入者を対象にした、自社のWebサイトでの会員制サービスを検討している」という。
しかし、ケーブルテレビによるピンポイント気象サービスの将来性は楽観できない。BSデジタル放送や110度CS放送のデータ放送では、視聴者の住所に対応したピンポイント気象情報の提供が可能である。ケーブル局が気象情報の調達を専門サプライヤーにアウトソーシングしている現状では、「気象情報はNHK、民放にとってもキラーコンテンツ。今後さらに力を入れてくる。ケーブルテレビが衛星放送と差別化するのは困難になるだろう」(九州のケーブル局)。
BS、CSのデータ放送に対しても強い競争力を持った、ケーブル局ならではのピンポイント気象情報とはどのようなものだろうか? このことを見据えているケーブル局もある。首都圏のある局は、「ピンポイント予報を生中継や動画で解説する番組」に期待を寄せる。生中継や動画を活かすことによって、データ放送やWebサイトとの違いを明確にする考えである。
また、東海のある局では、気象情報だけでなく、地元商店のショッピング情報なども含めた「生活圏情報」全般の強化を図っている。単独の情報としてはデータ放送と競合するが、他のメディアの追随を許さない"生活圏情報の総合メディア"の一メニューとしてであれば、競争力を失うことはない。「『ケーブルテレビは生活圏情報が充実している』という評価が口コミで定着し、加入者が増えている」(同局営業企画課長)。京阪神ケーブルビジョンも同様の戦略である。中川章・企画営業部長はこう指摘する。「ケーブルテレビを『地域の情報は何でも見られる』というメディアにしていきたい。ピンポイント気象情報は地域密着の情報として、大事な位置付けにある。気象情報を他の地域情報とどう結びつけていくかが課題だ」。

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