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月刊ニューメディア 2011年9月号掲載
連載 メディア関係者のための国際情勢
早稲田大学日米研究機構が国際シンポジウム開催 アジアの安全保障と日米の役割を議論(後編)

 早稲田大学日米研究機構(WOJUSS)は6月9日・10日、第4回国際シンポジウム2011「変容するアジアと日米関係」を早大で開催した。複数の講演、パネルディスカッションの中で、講演「アジアの安全保障と日米」では、中国の軍拡や海洋進出などで不確実性が増すアジア地域の安全保障における日米の役割について重要な議論が行われた。一人目の講演者、渡部恒雄・東京財団政策研究事業ディレクター(外交・安全保障担当)上席研究員の議論を先月号(8月号)の「前編」で紹介した。今月号の「後編」では、二人目の講演者、植木千可子・早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の議論の要旨を掲載する。
(取材・文:渡辺 元・本誌編集部)

 

アジア地域を安定させた
冷戦時代の4つのメカニズム

 植木教授は冷戦時代に日米同盟がアジア地域の安全・安定に貢献することを可能にしたメカニズムとして、(1)抑止、(2)安心供与、(3)安全保障のジレンマの緩和、(4)米国の市場開放、の4点を挙げた。
  (1)の抑止については、局地的・小規模な紛争も究極的に核戦争に至る恐れがあるという認識を西側と東側が共有していたこと、相互確証破壊の状況が成立していたことによって、非常に有効に機能した。(2)の安心供与については、冷戦時代は日本、米国、中国、韓国、東南アジア諸国などの共通の脅威としてソ連・共産圏があり、アジア地域の二国間に存在する個別の問題(領土問題、経済的問題、イデオロギーなど)よりも二国間の「戦略的なセーフティネット」維持のほうが重要であったために、二国間の問題が国内政治上も抑制される状況が成立した。(3)の安全保障のジレンマの緩和については、日本、中国、朝鮮半島、東南アジア諸国は地理的に近接しているが、米国のプレゼンスがあったため、各国が過激に軍備増強を進める安全保障のジレンマが回避された。(4)米国の市場開放については、それによってアジア地域の経済的安定、政治的安定がもたらされた。このように4つのメカニズムについて植木教授は説明した。

 

抑止と軍事介入のコスト上昇で
小規模紛争の抑制が非常に困難に

 それでは、これらのメカニズムは冷戦後にどう変化したのか。植木教授は冷戦が終わったことによって前述の抑止と安心供与のメカニズムは失われたが、それを米国の圧倒的な力の優位が補完したため、紛争に対する抑止と軍事介入のコストは低く抑えられた、と述べた。
  しかし、今後については、「抑止と軍事介入のコストは、これから高くなっていく。中国などの成長に対して、日米の成長は相対的にスピードが落ちているためだ。大規模な戦争は今後も抑止できる可能性が高いが、最近起こっているような海域での(中国の)行動、北朝鮮の韓国砲撃のような小規模の紛争をこの地域で抑制していくのは非常に難しくなる」と、今後は抑止のメカニズムが機能低下することを予測。安心供与のメカニズムを再構築することが重要であると主張した。
  「中国を建設的な利害共有者にしていくことが大事だ。そのためには、かつてソ連に対して行ったような封じ込めのオプションは取れない。(中国と日米は)相互に社会・経済の統合が進み、中国経済の成長が日米にとって良いことだから、完全な抑止だけでは不可能だ。そうすると、安心供与のメカニズムをどのように作っていくかということになる」(植木教授)。

 

日本は政治的意思と予算配分を変え
安心供与のメカニズム構築を

 しかし、アジア地域の安心供与のメカニズム、多国間枠組み作りは成功していないという。
  たしかに、米国も日本も現在、ASEAN地域フォーラム(ARF)に積極的に参加している。昨年10月には、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)が初めて開かれ、ASEAN、米国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、ロシアの国防大臣が参加した。日本は新しい防衛大綱で、この地域の安全保障協力と防衛交流を積極的に推進していくとしている。
  だが、これらの動きがあるにもかかわらず、「多国間の協調枠組みはまだ進んでいないし、安心供与できるものには育っていない。それはなぜか。米国はARFなどに参加してはいるが、多くのエネルギーが割かれているのは、タイ、フィリピンなどとの二国間の安全保障協力の強化だ。米国も日本も(中国に対して)防衛協力や信頼醸成は行うが、どちらかと言うとハード、抑止の部分に予算配分と人的資源が振り向けられていて、バランスがとられていない」(植木教授)。
  そのため植木教授は、中国に対するヘッジ戦略では、抑止とともに安心供与のメカニズムの存在が必要で、さらに中国が安心供与のメカニズムを自ら維持することを望む状況を作ることが非常に重要であり、そのためには日本は政治的意思と予算配分を変更し、安心供与のメカニズムの構築を強化すべきであると論じた。


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