TOPページ > 2020年9月号の記事[特集 Withコロナ社会をデザインする]テレビCM素材のオンライン運用状況

[特集 Withコロナ社会をデザインする]

テレビCM素材のオンライン運用状況

右からCM素材オンライン運用推進プロジェクトのリーダー・外山善太氏(博報堂DYメディアパートナーズ ビジネス統括局 テレビ・ラジオ進行業務部 メディアトラフィックディレクター)、同プロジェクトのサブリーダー・沼澤 忍氏(電通 事業企画局チーフディレクター 兼 電通西日本 コミュニケーションプランニングセンターセンター長 常務執行役員)

テレビCM素材のオンライン搬入(全体の運用【図】参照)がスタートしたのは2017年10月2日。その道筋をつけたのは一般社団法人日本広告業協会(JAAA)のCM素材オンライン運用推進プロジェクトで、現在も普及に努めている。弊誌は、2019年3月号で開始1年の手応えを取材している。今回は、コロナ禍の下で「オンライン」が注目される中、すでに稼働していたテレビCMのオンライン運用の最新状況を取材した。(構成:古山智恵・本誌編集部)


着実に増えているオンライン運用
全送稿量の4割と推察

 テレビCMの素材搬入のオンライン運用の現状について、プロジェクトリーダーであ る外山善太氏は次のように説明する。

 「2018年度のオンライン送稿のCM本数は4万7,000本で、2019年度は18万本を超え、前年度比3.8倍以上の増加です。番組改編期ごとに増加しており、推計ですが、現時点で全送稿量の4割程度と予測しています。また、実施した広告主は2019年度末390社で、前年度比の2.6倍。テレビCMオンライン送稿システムCMDeCoを活用した広告会社は110社、前年度比2.4倍です」。

 オンライン送稿は全国一律に始まったわけではないので、この伸び方は大きいと言える。
 受ける側としてテレビCMオンライン運用の対応局は、2017年10月の開始時は21局だったが、2020年6月中旬現在で124局に増加。内訳は、系列局:110局、独立局:8局、BS局:6局である。日本民間放送連盟(民放連)の努力目標は2020年度内に地上波全局可能にするとしているが、年内に、128局までに増えると予想している。導入した放送局は、「CM素材の受け取りや内容確認、情報登録など、作業工程が大幅に減り、オンラインの利便性を感じている」と外山氏は指摘する。

 民放連の導入目標を受け、JAAAとしては在京キー5局への搬入素材数の80%以上をオンライン化すること、CM制作の実績のある全加盟社がオンライン送稿を2021年3月末までに実施、という努力目標を掲げている。

 素材搬入事業者も、当初の開始直後の7社(アドストリームジャパン、イメージスタジオイチマルキュウ、音響ハウス、GroupIMD、日本電気、フォトロン、ブロードメディア)から2018年9月に1社(オムニバス・ジャパン)、昨年2月に1社(ユーキャン・アド)が増えて9社となっている。

コロナ禍後の再始動を機に
オンライン運用の更なる導入を

 気になる新型コロナウイルスによる影響について、プロジェクトのサブリーダーである沼澤忍氏は、「JAC(日本アド・コンテンツ制作協会)事務局にヒアリングしたところ、映像制作業界においては、CM企画制作作業が一時期完全に止まりました。延期・中止・再開時の方法・コロナ対策のためのコスト発生など、混乱や試行錯誤もあったようですが、現在は元に戻りつつあるとのことでした。CMオンライン運用への新たな移行もストップしていましたが、再始動を機に、オンラインへの切り替えが進むと思われます」と話す。

 では、新規運用者から何かしらの問題はなかったのか。「これまで説明会を丹念に繰り返し行っていますし、これからも最新状況や導入の手順などを丁寧に説明していきます。
実制作開始前に、オンライン運用なのかどうかを含め、とにかく関係者間で確認を、と繰り返しお願いしています。ですから、二年前よりコストの問題も含めて、制作側で生じるリスクは低下してきたと思います」と沼澤氏。

 前述したようにオンライン送稿は全送稿量の4割程度と推察されていることから、残り6割はHDCAMなどの媒体の運用だということになる。ことコロナ禍において、「媒体搬入はモノの移動を伴いますから、関係者は自粛要請期間中でも出勤して対応せざるを得ないのです。また、素材データだけをオンライン化してもだめで、進行スケジュールなどマネージメント情報などすべてをオンライン運用することが大切なのです。そうでないと、次の自粛要請が出た時も出勤せざるを得ないセクションができます」と外山氏は課題を指摘する。

 また、コロナの影響で広告界各社でも在宅勤務が進み、また宅配便や航空便などの減便や遅配が生じたことで、JAAAとして広告会社だけでは解決できない課題と捉え、日本アドバタイザーズ協会に広告主に可能な限りテレビCMオンライン送稿への切り替えの要望を行っている。コロナによって課題が顕在化したこととなり、オンライン運用の一層の普及拡大を推進していくという。

システムの「次世代バージョン」
アプローチを始める

 テレビCMオンライン送稿システム“CMDeCo”は、時間や距離に左右されることなく、ブラウザ上で行うため特別なソフトウェアを必要としないことから順調に稼働している。2年以上が経過する中で、すでに次のバージョンの検討に入っているという。「今のシステムは、民放連の加盟局や準加盟局を対象に2017年当時に考えたもので、確実性を担保するために手順などを堅牢にしています。次世代バージョンでは確実性を確保しながら、より簡易な仕組みにし、各プレーヤーの負担を小さくしたいと考えています。そうすることで、民放連加盟以外の放送局やケーブルテレビ局なども導入しやすくなるからです」と外山氏は話し、CAB-J(衛星テレビ広告協議会)とも情報交換しているそうだ。

 また、オンライン送稿のCMの尺は、上限として300秒だが、実運用では最長が180秒であった。長尺のCM素材も含め、オンライン送稿の流量が増えてくると、伝送システム面の処理能力も含めて検討していくという。

 運用コストについて、従来の輸送費にあたるCMDeCoの運用は、媒体扱い広告会社が負担し、広告主は従来のプリント費に相当するオンラインシステム利用料を制作扱い広告会社を通して素材搬入事業者の費用を負担するというもので、これまでのビジネスモデルと変わらない。オンライン運用の制作工程で新たに後工程費用が発生するが、オンライン受け入れ局が増えると総コストは低くなると設計している。搬入CMデータのフォーマットに関しても、「当初、局のCMバンクの受け入れ対応で課題はあったが、現在は運用で収斂されており、問題はありません」(沼澤氏)。

 さらに沼澤氏は、「スマートフォンやタブレットなどの多種あるデジタルデバイスや、街頭ビジョン、サイネージ、さらにトレインチャンネルなど、さまざまなデバイスに配信することが必要となっています。広告の表示機会、つまり出口がたくさんできてきたことで、テレビCMのオンライン運用はより活用の幅が広がってくると思われます。オンライン運用は開始から間もなく3年目になるので、特に若手の広告会社メディア担当者の多くでオンライン運用が当たり前、という感覚になっていることに驚いています」と、オンライン運用が当然の業務だと指摘する。

 今後について、外山氏は「CMDeCoはメタデータを保持しているので、広告会社からこのメタデータ活用による業務効率の期待がありますし、JAAAとしては2020年度の目標を広告会社の立場としてオンライン運用の積極的な営業へ切り替えていくことを目指しています」と、さらに進めていくという。テレビCM素材の新常態が一気に進むことを本誌編集部としても期待したい。

【図】オンライン運用の構成

@月刊ニューメディア2020年9月号掲載

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