テレビ信州×アトラクター
地デジ波を活用した防災・災害対策ツール
「ナローキャスト放送」の強み
テレビ信州 代表取締役社長・白岩裕之氏
放送局による新たな防災・緊急災害対応サービスとして注目が高まっているのが、テレビ信州が事業主体、アトラクターが技術提供する「ナローキャスト放送」。通信・ネットに頼らず、放送波を軸として情報伝達を行うこの仕組みは、ここ数年で急速に災害対策への危機感を高める全国のローカル局にとって最適なシステムのひとつだ。いち早くその有用性に着目し、新たな防災・災害対策ツールとして活用の準備を進めるテレビ信州は、放送局による「地域防災の切り札」として高い期待を寄せている。( 文:高瀬徹朗・フリージャーナリスト)
デジタルサイネージ用途から
災害対策用途へ
ナローキャスト放送は、放送波にテキストデータなどを乗せて送信し、専用STBで受信し表現処理するシステム。専用STBで受信後、機器制御信号に変換した遠隔操作、Bluetoothで近くのスマホへ一斉通知することも可能で、スマホからスマホへ通知を伝達することもできる。
従来、この技術は地上波を使った公共的なサイネージから開始し、実際、数年前に実用化したテレビ信州も県内自治体の観光用途のサイネージとして情報を発信していた。潮目を大きく変えたのは、昨秋、日本各地に大きな被害をもたらした大型台風の上陸だ。
「長野県は以前から台風被害の少ない県ですが、昨年の台風被害で各自治体の意識が大きく変わりました。また、地元紙によれば全市町村の40%程度で公共の情報伝達が十分に機能しておらず、結果的に被害を拡大させています。こうした事態に対応すべく、改めてナローキャスト放送の防災・災害対応活用を進めることになりました」(テレビ信州 代表取締役社長・白岩裕之氏)。
「テレビ放送の電波を使う」ことの
意義と課題
ナローキャスト放送の特徴は、放送波という強いインフラをそのまま用いつつ、広域波でありながら最小単位で特定STBに限定したデータ送信が可能なことだ。
「STBに付与しているIDにマッチした情報だけを取得するため、放送という県域単位の放送電波を利用しつつ、市町村単位、地区単位、最小でディスプレイ単位の受信が可能となります。災害発生後の避難所生活において、避難所単位のきめ細かな情報提供もできます」(アトラクター 代表取締役・濱田淳氏)。
STB経由で機器に対して制御することが可能なので、例えば避難所のキーボックスを緊急時に開錠することも可能だ。実際に「鍵の管理者が被災して、避難所を開けられないというケースもあります。これにより放送が地域防災として直接的に役立つでしょう」(濱田氏)。
地上波という災害にも強いインフラをベースとしていることはもとより、放送局そのものへの信頼が情報への信頼性を担保しているともいえるナローキャスト放送。一方、地上波を活用した仕組みということで、現場からは「新しい取り組みのためのルール整備、局としての考査を含めた情報の信頼性確保には課題がある」(テレビ信州 編成業務局業務部・戦略企画室室長・白木博明氏)と慎重視する声もあがる。
こうした課題について、旗振り役も務める社長の白岩氏は「難しい問題ではあるが、有事の際、最も重要な情報は『逃げてください』ということ。STB側に予め音声を蓄積しておき、そのトリガーとしてナローキャスト放送を使うということで実現できる。勇み足で発信してしまうこともあるだろうが、新しい考査の考え方を正しく検討・整理していくことで解決できると考えている」と話す。
システム的にはマスター設備の一部改修と設備追加が必要となるが、それも「導入費用を可能な限り抑えることが出来るように推進中」(濱田氏)とのこと。白岩氏も「全国のローカル局にとって、地域情報を届ける最適なツールとなれば」と期待を込める。
まずはテレビ信州での活用に注目が集まることになりそうだ。。
テレビ放送の電波による【新しい情報伝達】ナローキャスト放送
@月刊ニューメディア2020年10月号掲載