本誌編集部声明
ウクライナでの戦争に対する本誌の決意
渡辺 元『月刊ニューメディア』編集長
カントは国際連盟の創設にも影響を与えた著書『永遠平和のために』(1795 年)で、国家間の永遠平和のための6つの条項を示している。その最後を結ぶのが次の第六条項だ。
「いかなる国家も、他国との戦争において、将来の平和時における相互間の信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない。たとえば、暗殺者や毒殺者を雇ったり、降伏条約を破ったり、敵国内での裏切りをそそのかしたりすることが、これに当たる」(※)
現在、ロシアが侵略戦争で行っているのは、この平和に向けた条項とはまさに逆の行為だ。それは、敵国民に戦争からの離反、自国民に戦争への支持をフェイクニュースや報道統制などによってそそのかす行為であり、その手段にSNS や放送などのメディアが利用されている。
そのような中、ロシアの政府系テレビのニュース番組に乱入し、「プロパガンダを信じるな」と反戦メッセージを掲げた同局編集者マリーナ・オフシャンニコワさんの勇気ある行動は、専制国家をも揺るがす可能性のある情報発信の力を教えてくれた。
本誌はロシアによる侵略に抗議する。そのうえで、メディア専門誌である本誌だからできる情報発信を実行していきたい。それは、戦争の真実を取材・調査して発信し、侵略の停止、人々の平和な生活と希望が取り戻されることを目指して取り組むメディアの活動や新しい試みを伝えることだ。また、フェイクニュースやプロパガンダ、バイアスのかかった情報発信、難民への差別、侵略国の国民への憎悪、そして時間とともに戦争の悲劇や戦災者への関心を失っていくこと――、これらにメディアや我々国民が加担していないかをつぶさに見つめ、問題があればどのように改善していけばいいのかを考え、議論し、提案することも、本誌が務めるべき使命だ。
カントは前述の条項が果たされなかったときの帰結について、次のように述べている。
「それとともにあらゆる正義も滅亡するから、永遠平和は人類の巨大な墓石の上にのみ築かれることになろう」
この戦争においてメディアで日々発信される言葉、映像、音声が、「人類の巨大な墓石」の碑文として刻まれるのではなく、「国家間の永遠平和」に向けたたゆまぬ努力の証として記録されることを目指し、本誌は使命を果たしていくことをここに表明する。(2022 年3月16日)
※イマヌエル・カント著/宇都宮芳明訳『永遠平和のために』岩波書店、1985 年