特集 コロナに負けない! エンタメ・メディアの挑戦
字幕付きCM拡大へ「ロードマップ」発表
総務省情報流通行政局地上放送課長
林 弘郷氏
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字幕付きCM普及推進協議会 第6期運営委員長
小出 誠氏
3団体(民放連・業協・アド協)がまとめた
「字幕付きCM普及のロードマップ」の役割
2014年10月に日本民間放送連盟(民放連)、日本広告業協会(業協)、日本アドバタイザーズ協会(アド協)の3団体が設立した「字幕付きCM普及推進協議会」(以下、字幕CM協)は、9月18日に「字幕付きCM普及推進に向けたロードマップ」を公表した。放送番組やCMすべての字幕付与を支援する総務省情報流通行政局地上放送課・林弘郷課長に、字幕CM協 第6期運営委員長・小出誠氏(資生堂ジャパン・メディア戦略部エグゼクティブマネージャー)が「ロードマップ」の役割を説明し、話を聞いた。
(進行・構成:吉井 勇・本誌編集部、写真:古山智恵・本誌編集部)
小 出・課題を洗い出してまとめたロードマップ
林課長・現実的な推進計画として期待したい
最終目標を2022年10月に定め、全国のネットワーク系列局で、ネットタイム番組枠、ローカルタイム各局番組枠、スポット枠の全CM枠で字幕付きCMを放送できるようにするために、まずこの10月、関東エリア5局から動き、来年2021年4月に関東・関西・東海エリア15局、同年10月から全国のネットワーク系列局でネットタイム枠とローカルタイム枠の実施を経て、最終目標へ向かうことでまとめた計画である。
この0.3%という数字を知った時、正直言って驚いた。「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」対象番組(6時~25時までの連続した18時間)における字幕付与率は主要な放送局では概ね90%を超え、100%へあと一押しの状況である。一方で、CMの字幕付与率は伸び悩んでおり、ロードマップの公表は強力な後押しとなる。特に、できるところから確実に進めていく考えについては、現実的な計画だと感じている。
林課長・総務省はCMの字幕付与に強い関心
小 出・3団体の協議会設立を推進したのは総務省
平成25(2013)年9月に閣議決定された「障害者基本計画」には、「字幕放送(CM 番組を含む)、解説放送、手話放送等の普及を通じた障害者の円滑な放送の利用を図る。」と記載された。これを受け、総務省は同年にあった地上基幹放送事業者の一斉再免許時において、初めて「CMへの字幕付与の普及に留意すること」を要請し、平成30(2018)年の再免許時も同様の要請を行った。放送を通した情報へのアクセス機会の均等化は重要だと考えているからだ。
字幕付きCMの普及のためには、広告主、広告会社、放送事業者が連携を図ることが必要であることから、テレビCMに関係する3つの団体が意見交換する場「字幕CM協」の設立に向け、総務省にも協力いただいた。
予算面では、平成5(1993)年度から放送局への字幕番組等の制作費助成を行っており、平成27(2015)年度からは、特にローカル局に向けて、CM番組への字幕付与のチェックに必要な機器(プレビュー装置、信号チェック装置)の整備費の助成を開始しており、これまでに29局を支援している。
小 出・「かもしれない」の 懸念事項がブレーキか
林課長・広告主全体の共通理解の醸成と協力の促進をお願いしたい
加えて、万が一にもない稀有なケースを指摘する声もある。CMに付いている字幕データが次のCMに被ってしまった場合、補償などの問題にもなるという懸念だ。広告主が集まるアド協では、「字幕の普及を最優先に考え、クレームをつけたり、補償を求めない」というスタンスを明確にして、これを共通理解にしており、この認識に広告主が立つことを前提に3団体でロードマップを作成した。ただ、アド協に加盟していない全国各地の広告主が、「そんなことは知らない」と、クレームを言ってこないかとの不安もある。
CMに字幕が付いているのが当たり前にしていくためにも、CM業界全体が協力して取り組みを実施していくことが大事だと考えている。そのため、アド協会員以外の全国の広告主に対しても、アド協が明確にしたスタンスへの理解が得られるよう、周知と協力を進めていただきたい。
小 出・ロードマップをテーマに字幕CMセミナー開催
林課長・字幕利用者の思いをCM関係者に共有できる場にしてもらいたい
10月13日(火)にオンラインで字幕付きCMセミナーを開催する。内容として、字幕利用者からCMに字幕があることで生活にどんな変化があるのかなど、率直な意見を聞く機会にしたい。
これまでも字幕CMセミナーには総務省も参加させていただいており、今後も協力を惜しまない。テレビは家族で見る大事な娯楽であり、家族と一緒にCMも含めて番組全体を楽しめるような環境の整備に向け、字幕利用者の思いをCM関係者に共有できる機会にしてもらいたい。
字幕付きCMを用意しても自由に流せないから、というネガティブな考えにならないためにもロードマップを着実に進めることが大事だと考えている。
ロードマップを確実に実行していただくことで、字幕付きCMの本数も、提供する広告主も増えていくことを期待している。2014年以降、CMの字幕付与が着実に普及してきたのは、字幕CM協の果たした役割が大きいと考えている。
私たち3団体も同様の考えで臨んでいきたい。特に、ローカルの広告主の皆さんにロードマップの考えを理解していただくための活動が欠かせない。
ロードマップの主旨である「メッセージがすべての人に届く」という考えに異存はなく、必要な協力をしていく。ぜひ、総務省と二人三脚で進めていくつもりで取り組んでいただきたい。
総務省に関心を持っていただくことで、少しでも早く全放送局、全CM枠で取り組める体制を構築していきたい。
※ネットタイム枠: 全国のネットワーク系列局で放送される番組提供CM枠
※ ローカルタイム枠: 各放送局が独自で放送する番組提供 CM枠
※ スポット枠: 番組提供 CM 枠以外の、放送局が独自に定めるCM 枠
※ 対象は、全国のネットワーク系列局(独立局、BS局を除く)です。
※ 1関東5局はTBSテレビ、日本テレビ放送網、テレビ朝日、フジテレビジョン、テレビ東京、2関西5局は毎日放送、朝日放送テレビ、読売テレビ放送、関西テレビ放送、テレビ大阪、3東海5局はCBCテレビ、東海テレビ放送、名古屋テレビ放送、中京テレビ放送、テレビ愛知。
※ 設備面での対応状況を随時確認し、その状況に応じた段階的な対応開始時期を設定。設備対応までの間、字幕を表示できない場合がある。
字幕付きCM普及促進協議会 構成3団体から「我々はやる!」
日本民間放送連盟(民放連)
黒崎太郎
字幕付きCM普及推進協議会 運営委員
日本テレビ放送網 取締役執行役員営業担当
民放事業者にとってCMは事業の根幹であり、常に安全かつ確実な運行が求められます。そのため在京キー局5社を中心にトライアルを実施し、安全運行レベルの向上、システム改修や運用体制の確立に取り組んできました。CMは広告主・広告会社が企画・制作し、民放事業者が放送するものであり、字幕付きCMの放送には3者それぞれにさまざまな課題があります。
こうした中、“聴覚障害者の情報アクセシビリティ向上”という目的を共有する3団体が知恵を出し合い、ロードマップ取りまとめにこぎ着けたことは非常に大きな成果です。字幕付きCMの普及推進はSDGsの理念である、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に資するものであり、企業に求められる今日的な要請に応える観点からも大きな意義があります。
民放連は、すべてのCMの放送枠で字幕付きCMを受け入れ可能とするための課題解決を東阪名15社が担うことでローカル局の負担軽減を図りつつ、段階的に放送枠を拡大してゴールを目指します。字幕付きCMの普及を通じて視聴者の暮らしをより豊かにし、テレビCMの価値向上を実現するため、これからもより多くの広告主・広告会社と連携を深め、字幕付きCMの着実な普及に取り組んでいく考えです。
日本広告業協会(業協/JAAA)
沼澤 忍
字幕付きCM普及促進協議会 運営委員
電通 事業企画局チーフディレクター 兼 電通西日本 コミュニケーションプランニングセンター・センター長 常務執行役員
CC(クローズド・キャプション)字幕付与されたCMを必要とする方は、聴覚障がい者のほか、高齢者も含めると対象は約3,000万人(総務省調査)と想定されています。広告に携わる各団体として、この人たちに広告としての情報をしっかり伝えねばならない、という使命感は以前から持っていました。マーケティング活動という観点からも大切な視点であると分かっておりました。
しかし、制作面では誰が、いくらで、何日で、作れるのかという商流が曖昧なままでした。すなわち、誰が=広告会社CRか、CM制作会社か、CM監督か、ポストプロダクションか。いくらで、何日で作れるの?、見積は誰が作り?、誰に出すの?、という問題です。
この状況に対して、広告制作業界団体同士が話し合いを重ね、整理をしていきました。制作業界団体とはJAAA(広告会社)、JAC(CM制作)、JPPA(ポストプロダクション)です。そして、一番シンプルなCC字幕制作プロセスとして、ポスプロが直接広告主や広告会社へ見積提出可能な商流を可能としました(もちろん制作会社が、これまで通り全体を制作管理しても良いですし、そうでなくともCM素材データの受け渡し等でサポートします)。
この制作プロセスの整理を、業界団体=JAA(広告主)、民放連(テレビ)、JAAA(広告
会社)で確認したのが2019年です。
2020年、字幕付きCM普及推進協議会としていよいよ明確なロードマップを発表、上記のようなプロセスで制作工程がまとまったことを受け、本格的に、CC字幕付与CMがタイム、そしてスポットでも可能となってまいります。
JAAAとしても協議会を中心に活動を活発化し、ウエビナー等で全国に具体的な出稿方法や制作方法を伝え、字幕CM普及をより加速させていきたいと考えます。
日本アドバタイザーズ協会(アド協/JAA)
小出 誠
字幕付きCM普及推進協議会 第6期運営委員長資生堂ジャパンメディア戦略部エグゼクティブマネージャー
今回のロードマップでは、字幕付きCM普及推進協議会に関係する皆さまのご尽力をいただき、字幕付きCM拡大の工程表を取りまとめることができました。誌面上ではありますが、第6期・幹事団体として改めて御礼申し上げます。
JAAとしては今回、放送局の方々の懸念を解消するため、「字幕表示にかかわる不具合」と「同CM放送枠での字幕付きCMと字幕のないCMの混在」について問題視をしないというスタンスを決定しました。
障害の有無を問わず、どのような情報にも平等にアクセスできることは、本来当たり前のこととすべきで、その環境へ向けた取り組みは積極的に進めていかなければなりません。それは広告の場面でも同じで、情報アクセシビリティを向上させる一つの意思として、今回のこのスタンス決定へと至りました。この思いに関しては、全国各地の広告主企業の皆さまにおいてもぜひご賛同いただき、一つでも多くの字幕付きCMを必要としている方々が見られる環境へとつながっていく一助となることを期待しています。
また一方で、字幕付きCMの制作が増えない背景には、広告主のニーズに対する認識の不足、具体的な制作ノウハウの不足、字幕付与に係る制作費用増加への懸念があります。これらについては、セミナーなどでの継続的な情報発信を行ってクリアを目指していきます。 今回のロードマップにより、今後、字幕付きCMを目にする機会も増えると思いますので、テレビCMの時間をより楽しみながらご覧いただければと思います。
@月刊ニューメディア2020年11月号掲載